刺激


弟の部屋で良い物を見付けた。皺一つ無い“其れ”は壁に吊るされていた。
「…………ジャック。」
「嗚呼っ、駄目っ。触ら無いで……っ」
弟の叫び虚しく、俺は真新しい制服を鷲掴んだ。
「着て良い…?」
「駄目。絶対に駄目。」
「軍服貸してあげるから。元帥の軍服だよ?ほらほら。」
「結構です。」
泣いて強奪阻止する弟を足蹴りし、俺は難無く制服を手に入れた。陸軍元帥に盾突く等、警官ごときが許しません。
「いやあ、俺って何着ても似合うね。」
「酷い…。未だ一回も着て無いのに…」
鏡に映る俺の後ろで、弟は不細工な泣き顔を晒し喚く。
しかし如何な事か。着てみたいだけだった筈なのに。
「借りるよ。一晩。」
「一寸、兄さん?」
「明日には返します。アディオスッ」
家の外迄喚く声は聞こえたけれど、屹度幻聴だ。
借りたは良いが、生憎真新しい制服に備品は付いて居ない。手錠とか警棒があれば良かったのに。
同じ道なのに違って見える。
先ず手始めに基地に向かった。門番達は相変わらず門の前を行ったり来たりして居る。俺の姿に一度足を止め、俺は顔が見え無い様に俯いた。
「何か。」
無言で入ろうとした俺に門番達は慌て、侵入阻止をする。流石は門番。無駄な動きが無い。
「一寸貴方っ」
「警官が何用ですかっ。許可書を見せ為さいっ」
「誰に向かって口を聞いてるんだ?君達は。」
落ちた帽子から覗いた顔に門番は面白い様に離れ、震え乍ら門を開けた。けれど、折角開けて貰って何だが、用は無い。落ちた帽子を拾い、投げキスをあげた。
中々な効果だ。
さて、本番と行こう。




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