刺激


昼寝を妨害された。読み掛けだった本は床に落ちていて、最悪な目覚めだった。
「はいはい、今出るよ…」
何でこうも、ヘンリーが居ない時に限って来客が来るんだ。ドアーを叩くかベルを鳴らすか一つに絞れ。鳴らし乍ら叩くな。うちの玄関は打楽器じゃない。
「ミスター ベイリー。」
何と無くヘンリーの声に聞こえたが、窓から見えた姿は警官だった。
……………警官。
「何です…?」
「マーシャル ベイリーを呼んで頂けますか。」
「彼なら、居ませんが…」
「そうですか…。でしたら待たせて頂いても宜しいですか?」
ヘンリーの事なのに俺が変な汗を掻くのは何故だろう。
「ええ…、構いませんよ。」
鍵を開けた瞬間ドアーは乱暴に開き、其の尋常で無い入り方に俺は慌て、ソファの下に手を突っ込んだ。
此の警官、何かがおかしい。
丸で侵入の様な入り方もそうだが、何故一目散に二階に上がるのだろう。
「ヘンリーは居ないと云ってるだろう?」
家宅捜査なら構わない、礼状さえ見せれば。
「止まれ。其れ以上動いたら、不法侵入で撃………」
何故、銃の隠し場所が判ったんだ。
俺が銃を向ける其の前に、棚の後ろから銃を出し、背を向けた侭俺に向けた。
呆気に取られて居る間に警官は二階に上がり、寝室に入った。後を追って入った俺の腰に銃を押し付け、俺から銃を取り上げるとベッドを指した。
「御前、警官じゃないよな…」
“警官”は鼻で笑い、腰を強く押した。ベッドに俯せ、両手を頭に乗せ、其の手に銃口を感じた。
「金ならあるが、薬は無いぞ。」
ベッドが揺れ、痛い程銃を押し付けられ血の気が引いた。死ぬ事にじゃない。
「其れか…」
此の“警官”の目的は金でも薬でも無い。俺だ。
背中に手が這い、喉が締まった。頭に“警官”の笑い声が叩き付けられ、其の声に俺は放心した。
「…………おい…」
「御免っ。だって…、あははっ」
其処には案の定、楽しそうなヘンリーが居た。
「普通気付くでしょう?全然気付か無いんだもんっ」
「気付く訳無いだろう?」
楽しそうなヘンリーに腹が立ち、起きた俺はベッドに座るヘンリーを押し倒した。
「変な事して、御前は。」
「でも刺激的だろう?」
首を傾げ、挑発的な目で俺を見る。
刺激は充分にあった。其れはもう、身の毛も弥立つ程。軍艦に立つ以上にな。
「少し御仕置きしてやろうか、不良警官。」
「良いね、刺激的だ。」
そう不敵に笑う顔が一番刺激的だ。




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