愛しき支配者へ永遠の愛を


何時もの様に目が覚めた。隣に眠るヘンリーの髪を触り、額に触れた時、眠気が吹っ飛ぶ程の熱さを知った。
「ヘンリー、ヘンリー。起きろ。」
数回揺さ振ると激しい咳と共に熱い息が篭った。
「寒い………」
掠れた声を出し、顔を蒼白させるヘンリーの首筋に両手を付け、信じられない熱さに体温計を探した。
「……四十度近い…」
息をする度気管から獣の呻き声の様な音がし、此れが唯の風邪で無い事を知った。
寒いと布団を握り締めるヘンリーを病院に連れて行く事は困難で、呼んだ医者は一瞬顔色を変えた。
「音が酷い。相当放っておかれましたね、ベイリーさん。」
聞けばヘンリー、一週間以上も前から風邪の症状が出て居たと云う。俺が其れを知らなかった理由は至極簡単で、昨日亜米利加から帰国した。
ヘンリーは自分の事にはとことん面倒臭がり屋で、尚且病院嫌いだ。風邪ごときでは行かず、骨折して居ても、周りが「やばいんじゃないか」と云わない限り、痛いと呟き鎮痛剤を飲むだけに終わる。
ヘンリーが病院に行かないのは幼少時代の癖で、多忙な母親を煩わす事を嫌い、結果病院嫌いになった。ウイルスなんか気が済んだら勝手に出て行く、が持論で、出て行った先には俺が居る。其れを阻止する為、俺が傍に居る時は往診させる。
其れが、今回に限って出来無かった。
そして其れが、俺達の人生を、180度変えた。




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