愛しき支配者へ永遠の愛を


微熱が続き、尚且気管の音も一向に消える気配は無く、検査した検査、予想通りの肺炎だった。入院させると云った医者にヘンリーは首を振り、何処迄も病院嫌いを発揮させた。
「看護士を一人常駐させて、其れで良いだろう。問題が発生したら飛んで来て。医者が沢山居るのが自慢何だろう?」
自分の身体が今如何なって居るのか判らない筈無いのだが、病院だけは絶対に嫌だ、そんな悍ましい場所に居て治る筈が無いと、頑なに拒否をした。
二時間程一悶着し、折れたのは医者だった。
唯俺は、冗談では無かった。
看護士を二十四時間此の家に常駐させてる等、女嫌いの俺からして見れば、其れこそ死ぬ事情。
俺に近付くな、俺の物に触るな、俺の部屋に用があっても絶対入るな、絶対に声を掛けるな、そう規約させ、置く事を決めた。
医療器具が大量に入った為、俺は寝室に寝る事が不可能となり、真横の部屋に移動した。分厚い壁の御蔭で、二人の会話は聞こえない。
「ダンの調子は如何?」
連絡をした次の日にマットと子供達が来た。コハクは生憎、撮影で伊太利亜に居る。一週間すれば終わるらしく、終わり次第来ると云う。
「賑やかだね。」
別、子供達が騒いで居る訳では無いのだが、ヘンリーは又家族が一箇所に集まって居る事に喜び、病気も悪くないね、そう笑って見せた。
二日に一度は医者が来、そして四回目の往診の時だ。医者が首が捻ったのだ。
「君、在れは如何なってるんだ?箘が減ってないぞ。」
「投与して居ますよ。問題でも?」
「問題だよ、箘が減って無いんだぞ。其れ所か、炎症が広がってるよ。」
「そうですか。」
看護士は呑気に頷き、じゃあ増やします、そうぶっきら棒に云った。
「一寸待て。治って無いのか?其れ所か悪化だと?冗談云ってるのか?」
看護士では無く医者に、熱い息を繰り返すヘンリーの変わりに俺が云った。
「御前、医者だろう?そんな冗談は通じないぞ。」
「治る筈何ですよ、おかしいな…」
不思議がる医者は看護士が書いた記録紙を確認し、其の時だった。短く息を吐き、額を数回掻くと一度ヘンリーに微笑んだ。そして記録紙を看護士に投げ付けると、烈火の如く怒鳴り散らした。流石の俺も、此れには驚き、ヘンリーも少し目を開けた。
「御前、何年看護士してるんだ。」
「六年です。」
「六年?六年だと?だったら今直ぐに辞めろ。一日二回じゃなくて、三回だと私は二回目の往診の時に云った。」
「え…?」
さっと看護士の顔から血の気が引き、顔面に叩き付けられるカルテを半泣き状態で確認した。見る見る内に血の気と云う血の気が引き、がたがたと震え瞬きを仕切りに繰り返した。
「済み、ません…」
蚊の無く様な声で看護士は謝罪し、俺は呆れ返り、怒鳴る事さえ忘れて居た。
「何、如何したの…」
医者の怒鳴り声にヘンリーは虚ろな目を医者に向けた。状態を謝罪し様とした医者に、マットが「問題無い」そう口挟んだ。其れに俺は釣られ同じ様に頷き乍らヘンリーの髪を撫でた。
「何でも無い、医者と看護士が喧嘩してるだけだ。」
「先生が……、そう先生が、看護士をデートに誘ったら、勤務中ですからって、断られた。其れだけ。」
マットの声に医者は一瞬固まり、今一度看護士を見ると首を傾げた。如何見ても好みでは無い其の看護士だが、医者は仕方無く頷いた。
「ええ…。ええ、そうです。振られた腹癒せに。こんなエリートを振った。」
暗い医者の声にヘンリーは笑い、代わりに俺がデートしてあげるよと、肩を叩いた。
「完治したら是非。」
「やったね。嗚呼、でも俺、医者が嫌いだった。御免ね。」
掠れ、弱々しいヘンリーの声。其の声の所為で、誰も笑え無かった。




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