同じ名前


恋人に、捨てられた。
捨てられた、と云うのは間違って居るのかも知れない。とても複雑な事情で、何方が何方を捨てた等、正直当事者である俺にだって判らない。
捨てた、そして捨てられたであろう恋人の名前は、ジョルジュ・クレマン=シャルル・ロワ。
仏蘭西人だった。
俺より背が低くて、正直好みでは無かったけれど、何だろう。
雰囲気。
其れに惹かれた。
俺は男役だけれど、自分より身長のある男が好きだった。
ジョルジュが俺に教えて呉れたのは、セックスと仏蘭西語と、アンリと云う名前。其れから。
「ふざけんなよ…こっから出せって云ってんだよ…糞軍人共が…。陛下の犬が…。死ね、死ね。皆死ね……」
「うっせぇんだけど、鼠。」
「君がうっさい…蜜柑星人…」
幻覚と禁断症状と暴力に俺は支配されて居た。
俺達は、別れる積もりは無かった。ジョルジュが好きだからじゃない。彼が持っている物が堪らなく愛おしかった。ジョルジュが居なくなる、即ち其れが無く為る。
……ジョルジュの事は最初好きだったと思う。其れが何時しか物に変わり、ジョルジュ等如何でも良かった。俺には、其れさえあれば良かった。
俺の目の前でジョルジュは警察と仏軍に連行された。其の時でもジョルジュは笑って居て、俺は其れが面白くて、声を出して笑ったのを覚えて居る。
Queen of Drag。
ジョルジュが居なくなるのと同時に俺は其れを失った。
そうして、此の有様。
「おいこらへっぽこ玉無し野郎…聞いてんのか…出せって云ってんの…」
何時も俺を監視して居る此の男。吐き気がする程青い目を持って居た。とても綺麗で、俺とは違う。澄んだ青空の様だった。
「空の見過ぎで目が青く為ったか?え?」
「御前は濁った海だな。偶に見るよ。」
皮肉を云っても皮肉に返された。
俺が汚い言葉を云うと決まって此の男は、俺の目に光を当てた。何の目的でして居るかは判らないが、俺は其の光を見て居た。
そして何時も男は、俺の様に溜息を吐く。
「何時迄瞳孔開いてれば気が済むんだ。薬を与えた記憶は無いんだが。」
「うっさい…瞳孔って何だよ…。うわ…っ、何すんだよっ」
「ふん。こっちは反応し始めてるな。良し。」
「良くないよっ、糞野郎っ。出せっ、出せって云ってんだよっ」
「うっせぇえって云ってんだろうがっ、糞鼠っ」
「煩いのは君だっ」
こんな事を毎日繰り返して、気が触れそうだった。
逸そ、殺して呉れたら良いのに。
そう毎日、鎌を持つ天使に懇願した。




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