同じ名前


「21歳おめでとうヘンリー。」
笑うキースに俺も笑った。
「他にもあるんじゃない?」
「退院おめでとう。」
「そう其れ。」
更正施設に強制収容され二年経った。ドラッグの女王と呼ばれる其れを摂取した者は、二度と前の生活に戻る事は出来ない。けれど其れに近付く事は出来る。
其れには強い根気と精神力が要されるが、二年と云う驚異的短期間で俺は打ち勝った。収容された時一緒に居た在の蜜柑星人は未だ中に居る。
此の更正施設は、彼の英吉利黄金期を作り上げた女王が薬物根絶の為施設し、此処を出る人間は出る前に必ず軍に入隊を命ぜられる。陸空海軍強制は無く、自分の好きなのを選んで良いとの事で、俺は一番酷であろう陸軍を選んだ。
自分を甘やかすのは嫌だった。
「意外だ。てっきり海軍に来ると思っていた。」
キースは残念そうに眉を落とす。
「…何が悲しくて此処を出てからも貴方と関わらなきゃいけないの。俺は御免だよ。」
もう恋愛は御免だ。21でそんな考えに達した俺は、此れから先、誰かに片思いをして終わってゆく。
其れが一番楽なんだ。
「其れではミスターベイリー。此の二年、楽しかったですよ。御元気で。」
俺は帽子を上げ、微笑んだ。しかし、其の青空に足が動かなかった。憎らしい程目の前の青空は、俺の上にある空と同じで、澄んでいた。
「如何した。行かないのか?」
「い…行くよ。」
声を張り上げてみたが意味は無かった。
「荷物、落ちたぞ。」
恋愛は、二度と御免だ。俺は一人で生きていく。俺が惚れても、キースが同性愛者とは限らない。思春期、何度そんな思いをしたか。
本当に俺は、惚れ易い。
「おかしいな。空はこんなに晴れてるのに、海は大荒れだ。」
自分の靴が歪んで見える。
「嗚呼糞っ、何て快晴だっ。腹が立つ。」
「そうだな。」
涼しい声でキースは云うのに、其の体温は恐ろしく熱かった。熱くて、熱くて、息が出来無い。
「離してよ…」
「ロンドンの空は、不安定。知らないのか?」
嗚呼だから、君は、こうして俺を抱き締めてるのか。
「海軍に来てくれるとばかり思っていたのに。」
「君が陸軍だったら、俺は海軍になってただろうね。離してくれないか…」
「離したら、俺は海に飛び込むかもしれん。」
「何でだよ。」
「海に恋をしたのは間違いだったかもな。」
畜生、何で今日のロンドンの空は、こんなにも青いんだ。
何で海と空は、何時も一緒なんだ。
互いに見合って、互いを映し合っているんだ。
何で俺の目は緑で、君の目は青なんだ。
何で、海と空なんだ。
地球の仕組みに、従わない訳無いだろう。


此れが俺と、キースの始まりだった。




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