ライオンとハイエナ


俺達の関係は、教育上凄く宜しく無いと思う。子供が居る一つ屋根の下で、とんでも無い事をして居る。其れで無くとも管轄の保安員から“女っ気が無いのは余り好ましい事では無い”と云われて居る。
母親の居ない父親二人の生活、其れに加え男の手伝いが住み込みで二人居るんだから、花が無いと思う。マシューの友人に、全く同じ状況下の女の子、レイラが居る。彼女は逆の女。唯母親は、レズビアンでは無く出戻りで祖母が一人、此の祖母が家長であり又彼女の第二のママ。母親が二人居て、そして彼女の家には未婚の母親の妹、叔母が居る。家とは比べ物に為らない程裕福な家庭なのは、後家にも関わらず娘二人と彼女の生活を見れる事から判る。其れも其の筈、祖母は伯爵夫人だった、金なら幾らでもある。そんな裕福な家庭であるから当然手伝いは居る。
母親二人、叔母、手伝い二人と、彼女合わせて六人の女の館。キースは初めてマシューから其の話を聞いた時卒倒した。悍ましい化け物屋敷の間違いじゃないかと。確かに祖母を見るとそんな感じだ、母さんと良い勝負の派手さと厭らしさがある。
マシューはレイラと凄く仲良が良い。付き合ってるの?と聞いたが思い切り嫌な顔をされた。可愛いと俺は思うのだが、マシューは「彼奴は色々とクレイジー」と余り御気に召さないらしい。
マシューは俺と正反対で、アジアンテイストが好き。クラスに一人チャイニーズが居て、マシューは其方の御嬢さんに御執心だった。一度見たけど、確かに美女、顔のパーツはほぼ西洋人だが其の中で東洋人の強かな色気は溢れて居た。けれど其の彼女は完全な白人嫌いだった。
可哀相なマシュー、白人と付き合う位なら印度人の男と結婚した方がマシと迄云われた。紳士の英吉利人依り人権無視をする男と結婚して一生奴隷の方が良いと。何が其処迄彼女を白人嫌いにしたかは判らないが、英吉利でも彼女の指す国でも、東洋人に大した人権が無いのは同じ、想像は容易だった。白人男と結婚して人間のプライドを傷付けられる位なら、逸そ人として扱われない方が良いと彼女は思うのだろう。マシューの母親は亜米利加人。世間から遮断されて居たマシューが聞く言葉は母親の母国語。自分がクイーンズ英語を話せない所為で差別を受け、人種では差別しない側だが、彼女の負った傷はマシュー依り深い物なのだろう。白人と云うだけで全く相手にされて居なかった。
そして最悪な事に、在の御令嬢レイラは完全為る白人至上主義者、マシューが其の彼女に惚れ込んで居ると知った途端、聞くのも恐ろしい程の嫌がらせをした。俺が仲良しと思ったのは勘違い甚だしく、唯付き纏わられて居ただけだった。
女と云う生き物は、全く怖い。
キースが女嫌いに為るのも頷けた。
そんな“レイディ クレイジー(熱心な御嬢さん)”と嫌々付き合わなくとも良いじゃ無いかと親心に思うが、マシューには致命的欠陥がある。どんなに嫌いな相手でも、冷たく出来無い。突き放される孤独と悲愴を嫌と云う程知って居る為、残酷に為れない。俺やキース、レイラは其処を云うと反対で、何処迄も冷酷に残酷に為れた。
私欲の為に残酷な行いをするのは、人間しか居ない。
マシューは本当に、こんな薄汚れた世界に誤って堕ちて来た存在だった。




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