清涼求めて


「二週間経っても、暑さは引きませんねぇ。」
其れもそうだろう。盆から最後の暑さが来る。加納は其れを計算して居なかった。が、二週間前の在の暑さよりは幾分マシだ。
「元帥は何方に。」
「ええ一寸、英吉利の北部に。」
パタパタと英吉利で買った扇子扇ぎ、「ええ一寸」で英吉利に飛ぶ加納に愕然とした。
だから加納は二週間も休暇を提案したのだ。
暑いから?
違う。
確かに暑さには堪えて居たが、そんな理由で二週間も休暇を与える等、加納が優しい筈は無い。
「御一人で?」
「いいえ、娘と。初めての飛行機に喜んでおりましたよ。行った甲斐がありました。」
「奥様は…」
「香苗を連れたら、誰が家を見るんです。全く全く。然し。」
ぱたんと扇子を畳み、机に滑らせた。
二週間の休暇。加納が絶対に必要だった理由。
「英吉利も危ない。ヨーロッパは又、世界を在の渦に巻き込むかも知れない。在の渦に…」
扇子はくるくる回る。其れを見詰める加納の目に、汗が流れた。
「戦艦を動かす人間(雅)は居ない…、空母が必要だ…」
「して名は…」
「……櫻雅(オウガ)。航空母艦、櫻雅。」
にんまりと薄い唇を真横に引き、頬を盛り上がらす。然し、ふむ、と真顔に戻ると加納は唇を撫でた。何かが足りないと。
「柊…椿…大和…響…櫻…雅…」
一つづつ、軍艦及び戦艦の名前を漏らす。其の名前に八雲は足が震えた。
全て加納の周りに存在し、そして利用される人間。加納の為だけに、存在を許された人間。
「…嗚呼。」

八雲君、貴方が居ませんね……?

能面の周りは、何時も狂言に回って居る。




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