猟奇的遊戯


昔から猟奇的な男だった。クラスは一度も一緒に為った事は無いが、悪友二人と成す悪事は学校でも有名。猟奇的な趣味を持ち、少し螺子が外れた様な子供だった、八雲は。観察池の魚を壊滅させ、飼育小屋の小動物を恫喝する。フェンスの向こうに居る兎や鶏、フェンスをガンガン蹴っては怯える姿を観察して居た。此れが「怖いか、怖いか?怖いやろー、此れが人間様や」「食料の癖に愛玩気取んなや」と悪友二人と盛大に笑い遊んで居るなら未だ「止め為さいよ」「あんた頭おかしんちゃうの」と云えるが、八雲は立った侭無言でガンガン蹴り、左右に悪友を座らせる。
悪友の一人光大は、成長期に良く見られる「人と違う事してる自分格好良い」の精神と、虚栄心の青臭さで八雲に便乗するが、もう一人の悪友謙太は、根から気が弱く、黙って膝を抱えた。
八雲だけ、突拍子無く猟奇的で残酷だった。
すると此れ、松山が云ったのだが、肉体的虐待を受けて居る人間の典型的症状らしい。相手は云う迄も無く、三人の姉だ。
長女が支配役、二女が暴力役、三女が監視役。其の鬱憤を弱者に向けるのが八雲の役目。
八雲の不満は動物に留まらない、私も被害を受ける一人だ。「触んな、きしょいねん」から始まり「わいを見るな、爛れるねん」「視界に入んな、目が腐る」「喋んな、耳が腐る」で終わる。一番上の学年に為った時は最悪だった。常に蛙の串刺しを持ち歩き、気に食わない下級生を見ると串刺し振り回し追い掛け、反抗的な相手なら手を出した。気弱な下級生なら蛙の串刺しを顔面に擦り付けるだけで泣く為、八雲の鬱憤は解消される。抵抗した場合八雲の怒りは上がり、公開処刑をされた。
「反抗すんな、生意気な。蛙食え、溝から拾て来た蛙食え。光大、押さえ。」
「御免為さい、御免為さい。二度と反抗しませんから。」
同級生の前で上級生から押さえ付けられ、蛙を食わされる公開処刑。
八雲は、人目に付く所で悪事を働くのが大好きだった。顕示欲の為で、人が居ない場所では大人しい。
然も八雲は成長が良いのか、悪友達周り依り一回り大きい。下級生からしたら二周りも下手したら倍以上大きく、恐ろしい化け物に見える事だろう。
「口開いて、そんな食べたいん?しゃあないなぁ、うんうん。」
「ほーら蛙ぅ。」
バケツ一杯の蛙を下級生の顔面に落とし、小さい物だと口に入る。瞬間女生徒の悲鳴と下級生の嗚咽が廊下に響く。ぬめぬめとした蛙の体液を顔面に張り付かせ、下呂を吐く、其れを見た八雲はげらげら笑い転げ、そうして騒ぎを聞き付けた教諭三人に連行される。
「斎藤、ええ加減にせぇや、ぐちゃぐちゃやないかッ、誰が掃除すると思てんねやッ、御前がせえ、御前がッ、用務員さん可哀相やろッ」
「するかッ、離せやッ」
「蛙絶滅するがなッ、毎日毎日ッ」
「なんぼゆうても、やってええ事とあかん事あるやろッ、臭いやないかッ」
「うっさいうっさいッ、蛙投げんでッ、蛙食え蛙ッ」
「何でそんな蛙に固執すんねんッ」
「蛙も難儀やないかッ」
「蛙かて懸命に生きてんねんぞッ」
「はあッ?うっさい、うっさいねんッ、蛙が醜いからやッ、其れ以外理由あるかッ、阿呆かッ、姉貴に似てるやないかッ、そっくりで吃驚するわッ、血縁関係者やッ、明らかに属性一緒やろッ、脊椎動物亜門両生綱カエル目醜女蛙ッ、違うかッ?蛙何か絶滅したらええねんッ」
「姉貴な、うん、姉貴な。そっくりやけどあかん。」
「一応アレ人間やからな?霊長類で学名ホモサピエンスや。」
「知らん知らんッ、嘘やッ、絶…対嘘やッ、教師の癖に嘘教えんなッ、アレが人間やったらわいは何になんねんッ、神様や無いかッ。おおこら何見てんねんッ、見せモンちゃうぞッ」
公開処刑は趣味だが、連行場面を見られるのを嫌う八雲は、教諭が拾い集めた蛙を二三匹鷲掴み、投げる。又悲鳴。
「磯山ッ、松本ッ、自分等もじゃッ」
「はあッ?何でやねんッ、わし一個も関係無いや無いかッ」
光大は喚く。関係無いと云うが、バケツひっくり返し、下級生に蛙の洗礼を受けさせたのは彼である。
「大有りじゃッ、斎藤一味は有罪やッ」
「俺、俺、ほんま関係無いのに…」
「磯山は任意同行や。」
「いやいやいやいや任意ちゃいますやんッ、強制同行ですやんッ、女生徒に混ざってきゃあゆうただけですよッ」
此れは本当だ。気弱な謙太は離れた場所から二人を眺めて居ただけ。バケツから夥しい量の蛙が出て来た時、私と一緒に為ってきゃあと叫んだ。
八雲はずっと喚き、姿が階段に消えても声は暫く聞こえた。廊下は静まり返り、公開処刑受けた下級生は泣く事も忘れ廊下に伸びて居た。誰一人声を掛けず、通り過ぎる。
八雲は、此れも狙いなのだ。
孤独と云う、処刑。




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