白虎様
庭に埋め様と決め、然し八雲に穴を掘る気力は残っていない。夕方迄虎を庭に置き、茜は其れを見て居た。今にも動き出しそうな程足は大きく、奇麗な顔をしていた。生きているのでは無いかと茜は触れてみたが、毛が抜け、冷たさが伝わった。
疲労で伸びていた八雲が夕方に起き、在のちびは?、と茜に聞いた。八雲が寝てから茜はずっと此の虎を見ていたのだが、聞かれて子虎が居ない事に気付いた。
「さあ…」
「さあ、て…。変な奴に見付かったら毛皮にされるで。」
「嘘…っ」
「嘘や無いて。子供の毛は柔らかいし、獣臭さも少ないからな。其れに、身体小さいから簡単に皮が剥げる。」
其処で茜は初めて毛皮製品の作り方を知り、血の気を引かした。
「ちび…、ちび…何処や…」
我が子が迷子に為った母親の様に茜は庭をうろつき、煙草を咥えた八雲はスコップを地面に突き刺した。土を削る音に紛れ、嗚呼其処に居たんか、と茜の声が聞こえたので安堵したのだが、未だ痛む背中を思い切り叩かれ、作業の手を止め悶絶した。
「何やねん…。在の世逝くか思たや無いか…」
「血…」
「嗚呼?」
振り返り、映った子虎は口の回りを真赤に染め、ぎょっとはしたが再度スコップを手にした。
「肉食えるんか、良かった。」
「何…?」
「御飯食べに行ってたんやて、なあ、ちび。」
子虎はくるくると喉を鳴らし、豪快に欠伸をすると茜の足に首を擦り付けた。
「怪我ちゃうねんな?大丈夫何やな?」
身体のあちこちを触り、確認する茜に子虎は生々しい血を付けた舌を茜の頬に付けた。涎と血の洗礼に茜は固まり、八雲は声を出し笑う。
「御母ちゃん思いやなあ、白虎。」
「白、虎…?」
「ちびの名前。ちびちび呼んだら可哀相やろう。」
親虎一匹余裕に入る穴を掘り終えた八雲は精根尽き果て、中に落とすと地面に伸びた。
「土は茜が掛けやぁ…、わいもう死ぬわ…」
「丁度ええ。未だ余裕あるみたいやから、八雲も入ったらええよ。」
「ほうかぁ、ほんなら入るわ。御邪魔さぁん。って嫌やわ。」
「一人漫才、寒いわぁ…。極寒や。冬将軍の親族か?」
「も、ええて。早土掛けて。」
然し茜は動か無かった。少し身体を起こした八雲は急かす様にスコップを渡したが、茜の視線の先に頭を掻いた。
「………白虎が寝たら、埋めるで…」
「大きにな…」
優しいのか冷たいのか、八雲には未だ判らないが、白虎を見詰める目は暖かかった。
「嗚呼、ほんま、御母ちゃんそっくりのべっぴんさんや。」
「でかなったなぁ…」
二人の愛情を一身に受けた白虎は、雄に間違えられる程育った。
八雲からは利発さと強さを、茜からは優美さを貰った。二人を愛し、そして愛された。唯白虎自身は、怖い八雲より優しいだけの茜の方が好きな様である。
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