猟奇的遊戯


世の中は、因果で出来とる。
救い様の無い因果の渦にわい等は回されて、吐きそう。
わいと松山は、如何やっても切り離せん。松山が渦の目と云っても良い。云うならわいも。
茜がわいを好きに為ったのは松山に似とるから、恭子が松山を好きに為ったのはわいに似とるから。
別そんな似とる訳や無く、顔は明らかに彼方さんが良い、雰囲気も別似とらん、一寸した時に何方かが何方かを彷彿させる。
嗚呼、松山もそやったなぁ。
嗚呼、やくにぃとおんなしやん。
わい等が渦の目で、二人がぐるぐる回しよん。
煙草を消し乍ら、わいは云った。
「松山はんも、蛙の洗礼してたんか?」
「いやいや。」
茜は笑って、灰皿から離れる手を眺めた。
「えぐいトコは一緒。」
「何がえぐいねん。」
「あんた等、根っこ一緒やん。」
「はあ?」
性根腐ってる、と云いたいのか。
「サドやん、あんた等…」
「僕の何処がサドなんですかねぇ。心外や、謝れ。」
「表面は無害なのに、内面は有害ちゃうか。どす黒いえぐい根ぇが這ってる。」
茜は少し酔ってるのか、頭を垂らし、くふくふ笑う。
「あんなぁ茜ちゃん。」
「んー?」
「サドてなぁ、結構健気よ?」
「やっぱそうやんか、あはあは。」
わいは、だから違う、と云ったのだが、茜は肯定と捉えて仕舞った。
一体御前の脳味噌、如何為っとんねん。腐り切って有害ガス湧いてんのな。
「自分の欲望満たすんがサドちゃうねん、マゾの欲望満たすんがサドなんよ、知ってる?マゾがおるから、サドが存在出来んねん、サドだけ存在しとったら世の中崩壊じゃおい寝んな。」
笑い乍ら寝るとは何と器用な女、手の甲で重力に従う頬を叩いた。
「ほらぁ、なぁ、あんた等サドやん…」
「…人の話聞いてるか?聞いてませんね…」
「あんた今云うた、マゾん為にサドはおるて。」
茜がおるから松山がおる、茜の為に松山は存在する、詰まりこう云う事らしい。
違う、違うがな、阿呆。
「松山はんは、君の欲望を満たしてるんですか。えげつない欲望を。君が叩いて下さいと云えば松山は笑顔で叩いて呉れるんですか。」
そうですか、何たる変態。寄らんといて。
「そんなん、したら松山、お父ちゃんに殺されるがな…」
何だ、酔っ払いは。自分の言葉に責任も持てんのか。
然し、いや然し待て。
薄く開いた口から涎を垂らしそうに為って居た、慌てソファに背中を戻した。
「茜、マゾなん…?」
背凭れに乗せた頭を揺らし、あはあは何を笑って居るんだ、此奴は。
「あー、えー?知らんの?夫なのに。」
「初めて知ったがな。」
「やなかったら、あんたに何ぞ惚れるかい…、あんだけあしらわれて、其れでも好きで居るなんて、以外無いがな…」
とんでもない変態と結婚して仕舞った。此れは性格の不一致…は元からだが、性癖の不一致で離婚出来んだろうか。
衝撃の告白に口元が引き攣り、笑顔の侭顔を逸らした。
「やぁくもさん。」
「煩い、触らんで下さい…」
「そんな冷たいトコ、好きよ。」
うふふ。
駄目だ、茜は本格的に酔って居る。わいは飲んでないので、引くばかり。酔った人間が目の前に居る素面は、興ざめの一途を辿る。
わいは、確かに蛙にえぐい事して来た男だが、其れは蛙が姉に似ているだけであって、性格では無い。勿論性癖でも無い。当然勃起等しない。姉が蛙に、蛙が姉にさえ似てなければ、わいはあんな猟奇的行動をして居ない。居なかった。
全て、蛙に似た姉が悪いのであって、又、姉に似る蛙が悪いのだ。
「ベタベタすんな…、鬱陶しい…」
「ベタベタベタベタ。」
「うっさい。」
茜からしてみれば、此の冷たさこそ良いらしいのだが、理解出来ない。好きな奴には矢張り、優しくされたいでは無いか。話せなくても良い、目が合ったら笑って欲しい、そうして一層好きに為る……其れが“恋”では無いのか。
「あー、判ったぞ…?」
此れはマゾでは無い。かも知れない。
「狩猟本能ちゃいます…?其れ。」
「狩猟本能ぉ?」
「振り向かん相手を追い掛ける…其の行為が好きで、相手が自分に向いたら一気に冷める。」
だから、冷たくされると意地でも捕獲し様と躍起に為る。突き走る。追い詰めた其の時、相手が応戦すれば益々楽しく、自分のモノにして遣ろうと興奮し、従えば、此奴こんな弱い奴なんか、あたしには要らん、と一気に冷める。其れ迄追い掛けて居た時間と自分が阿呆らしく感じる。
此れはサドマゾ関係無く、本能である。其れが強いか弱いか。
わいは弱い。追い掛けるの等面倒臭い。寄って来た時がしりと捕まえる。寸分狂わず、爪を立てる。そうして、嗚呼嘘よ止めて頂戴と藻掻く姿にニヤニヤする。
「違いますか?」
細い茜の目が大きく開く。
「そう、まさにそう。」
「そう云うのはマゾって云わんのですよ。マゾは“やっだ、あたしこんなええ男に追われてるわ”“見て見て、あたし追われてんのん、こんなええ男に”で興奮する。」
「あたし、追われんのは好っきゃない。」
「ほら見てみぃ、ちゃうやん。」
詰まりすると、茜はサドに入るだろう。サドは基本、興味無い奴から追い掛けられると不愉快と不快感を覚える。もっと悪いと怒りを買う。
此れは夏彦氏が云って居た。彼はサドである。興味無い奴から言い寄られるモノ程殺意覚えるモノは無い、と。周りに虫が跳んで居たら苛々する、其れと同じ。
逆に、一寸と良いな、と思った奴が追い掛けて来ると、もっと追い掛けてみろよ、と挑発する。相手が諦め掛けた所で一気に捕獲し、心迄も奪う。
本物のサディストは、心を支配し、相手が望む肉体の欲望を提供する。其の姿に興奮する。御前の変態趣味に付き合う俺をもっと崇めろ、もっと従え、そうして溺れろ……マゾは一層心酔する、従う、絶対者にする。其れこそ、神と崇める。
己の猟奇的趣味を他人にするのは、唯の危ない性格、わいである。
此れは此れで、両者問題ある。
松山は明らかに、完全為るサディスト。先程茜が云った様に、従って居ると見せ掛け、本心は「嗚呼此奴は、ほんま俺がおらんと何も出来んのなぁ」「俺がおるから好き勝手してる」と思う。
松山が其方側だと気付いたのは籍を入れた時。手紙で、“御嬢はほんま俺が居ないと駄目な子でした、何も出来へん子でした、けど、今は八雲さんが居てます、八雲さんが居てはるから走ってます、寂しいですけど、渡します、御嬢の事、離さんどったげて下さい、御願いします”と直々に来た。此れは親父が云う事では無いのか?と思わなくも無かったが、従わなければ何をされるか判らんので従う。
出来る事なら手放したい。
同じにされては困る。
詰まり、だ。
長々と話したが、詰まりは、茜の狩猟本能は絶好調なのである。
追い詰められて平伏す訳でも無く、追い掛けられ喜ぶ訳でも無い。捕獲しても尚、隙あらば…で脱走の危険がある。此れはもう檻に入れて、逃げ出さん様監視する他無い。ふざけるなと喚く程「其れでこそあたしが惚れた男…」と興奮する。
「嫌ぁ、もう嫌ぁ…」
「え?何が?」
「わいを解放して、離婚してぇ…、なあほんま頼むわ…、わい死ぬがな…」
「嫌ッ、絶対嫌ッ、離婚なんかするかッ、死なれんのは困るから、適度に國枝先生んトコ送ってんでしょッ」
「逃げたい…ほんま逃げたい…」
「今迄散々逃げたでしょッ、往生際悪いで、八雲。」
目に見えない、鎖と足枷。見えれば逸そ何れだけ楽か。
此の性格が悪いんか、然し茜に平伏す位なら死んだ方がマシ。
「茜、えぐい。ほんまえぐい…。えげつない女ッ、御前が死んだらええねん。」
其れが一番の解決策。
「何であたしが死ななならんの。御前を殺して俺も死ぬッ、位云うたら。」
「は…?嫌。何でわい迄死ぬねん。わいが死ぬ理由一個も無いやんけ。御前だけ死ねや。わい笑ろといたるから。ど派手に死ね。脳味噌ぶちまけて死ね。」
「もっと奇麗に死なせや。」
「おーおー、知らんな?皆死んだらシシババ垂れんねん。なんぼ奇麗に死んでも、心臓止まったら皆うんこ垂れ流すねん。腐乱死体の方が奇麗や。アレは全部ぐずぐずに為ってますからねぇ、うんこも糞も関係あるかい。水死体やて膨張しとるだけで、うんこさん垂れてないがな。そうか君は、下半身シシババに塗れて死にたいんですね?悪趣味も大概にせぇ。男は死んだら勃起すんねん、知ってた?」
「ほんなら御前、今直ぐ死ねや。」
「あ?何でや。何で今やねん。気が向いた時か、嗚呼暇やなぁ、後もう死ぬ事しか残ってないやないか、暇やなあ、ほんなら死ぬか、て時死ぬわ。」
因みにわいにそんな暇も気も無いので、後五十年は生きて遣ろう。
酒でか、茜の白目は充血して居た。
茜が“今死ね”と云った理由、成る程そう云う事かと咳払いした。
「あー、茜ちゃん…?」
「んー?」
太股を撫でられても興奮しない。茜が魅力的で無いのが悪いのか、わいの性欲に問題があるのか。
「勃起する気配無いよ?」
「あんたは何時勃起すんの、え?二三ヶ月に一回、情けなく無いんか、え?」
「何?したいん?え?」
変態に加え、悪趣味で、淫乱とは救えない。
ほんま離婚したい…。
誰ですか、ほんまこんな女押し付けた奴。
「女やてしたいんですぅ。」
「触んな、淫乱…、ちょ…ほんま止めろ…」
いかん、此れがいかんのですよ、斎藤八雲。学習能力の無いあほだら。しよやしよや、今直ぐしよや、おお脱げや、と云えば茜の興が削がれるのに。
「あはあは、かっわえぇ。」
「止めぇて…ほんま…、あかんて…あかん…て…」
わいはマゾなんやろか、太股を撫でられ、耳を噛まれただけでなよなよと力が抜ける。必死に逃げるが追われる、終にソファに押し倒された。
ぎらぎらと本能に興奮する茜の目、怖かった。強姦される女はこんな気分か。
「御前、無駄にでかいねん…、逃げられへんがな…」
小さい女ならひょいと抱え、又今度、とあしらえるが、こうも長身、手足が長いと“さてさて置いといて”が出来ない。
「あ…、ちょ…、ほんま、あかんて…」
「あかん事、無いの。」
「あかん…、駄目、駄目よ茜ちゃん…」
「嫌も嫌よも。」
好きな内あるかい―――。
入った、完全に入って仕舞った、わいのスイッチが。
―――寄って来た時がしりと捕まえる。寸分狂わず、爪を立てる―――其れが、わい。虎の狩り。
手首掴み、ぐいん、と、逆に押し倒した。あら?あらん?と、掴まれ、ソファに沈む手首を交互に見る。
「やって呉れたな、此の蛇が。」
「あらん、一寸前通っただけですやん。」
「一寸も糞もあるかい。」
「虎の兄さん、穏便に。あたし、毒蛇なんよぉ。」
「一寸遊ぶだけ、食べん。」
「あらん、ほんま?」
ほんなら…。
其の毒で痺れさせて。猟奇的な牙を頂戴。




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