詰まらんモンですが


ウチのオバハンは、正直酒癖が悪い。其のかし、酒が好きなんやから始末悪い。わいは酒の味も判らん、飲んだ途端に気分悪く為る、翌日何ぞ此の世の終わりに為る程酒と相性が悪い。甘酒やて好かん。けど酒の席が好っきゃから、老師が飲み行く云わはったら御伴しますわな。
兄弟子や他学者はん達は老師に鍛われてますんで平気、とは云うても老師かてそんな飲む訳ちゃいますから酒乱何ぞ居らん訳ですよ。酒に余り耐久無いのに酒が好きなのは弥勒兄さん、一番の酒豪は夏彦兄さん。云うても弥勒兄さん、阿呆や無いので自分の限界も分量もきちんと弁えてる。
然し乍ら、一人飲めないのも詰まらん訳では無いが“淋しい”モノがあんねん。
特に、夏彦兄さんや一幸見た時ほんまそう思う。
夏彦兄さん何ぞ三十も半ばのほんまもんの大人(然も博士)ですから、皆が陽気に笑う横で、一人静かぁに、酒を(然もワイン)を飲む姿には、何とも云われへん“大人の色気”があって(然し童貞)、酒を達観追求した姿に惚れ惚れする、そして陽気に酒を楽しむ弥勒兄さん化も出来ん自分を哀れに思う。
其れに関しては(も)、僕は未だ未だ子供であります。
一幸やてそう。
一個しか違わへんのに(然も下)、酔いも見せんと、きっつい酒を氷と嗜むんやから、憎いやないか。一回ちょこっと貰いましたが、ブランデーと云うのですか?アレは、舌と食道が焼けそうなだけで、ちっとも此れ美味いと思えなんだ。
せやけど、騒ぐんは、此れ大阪人の血でしょうな、大好きやから酒の席には居る。
が、茜、御前は論外や。
習い事先で出来た友達と飲み行くんはええ、わいは其処迄煩い男ちゃう、寧ろ寛大、万歳で送ったるわ、潰れちゃったみたいで…と鶯の声(友達)で連絡着た晩には「おお、二度と帰って来んとええ」とほんま万歳する、其れっ位寛大亭主やけども、詰まらん酒の臭う撒き散らし帰宅する茜は「川に落ちて死んだらええのに」と思う程嫌い。嫌いと云うよりは“面倒臭い”。
嫌いなんもある。
自分の限界も知らんと飲む阿呆が何処居てますか、目の前に居るやないか、酔っ払う事目的で飲むのはアル中の証拠、酒は其の逢瀬(飲酒時間)を楽しむ為のモノ、酒に対する冒涜、…と夏彦兄さんが云うてた。
今日も阿呆みたく酔っ払って帰宅しましたわ、ウチのオバハン。化粧何か半分取れとるやないか、睫毛、右側落っことしてますよ。左側だけバシバシで怖いやないか。
「八雲さあん。」
「はい、お帰り為さい。よぅ帰って来れましたね。」
此れだけは褒めたるわ。最悪なんは、迎えに行かなあかん時。此ん時ばかりは、本気で去ね思う。死んだらええのに、やない、去ね。茜の友人ちゃんがわい好みやから、友人ちゃん見たさに迎え行くが(後点数稼ぎ)、へらへら面見ると殴りた為る。実際「アホンダラ御前、阿呆か阿呆、迷惑掛ける位なら去ね」と叩くけど。だからまあ、“あらん優しい旦那さん”を刷り込ます目的やけども、逆効果かも知らん。
策士やて、妻の酔うた姿には策さえ失せます。
「一人で全部し為さいよ、僕は寝ますよって。」
「八雲しゃあん。好きよぉ、あはんあはん。ちゅっちゅ。」
「煩い、乗るな、重いねん。」
酒乱妖怪は背中に乗り、雨や霰と、わいにキッスを降り掛ける。
嗚呼ほんま、階段から落としたい。
大嫌い、酔うた女なんか、大嫌い。纏めて政府が燃やしたらええねん。




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