詰まらんモンですが


何とか往生し乍らも茜をベッドに捨てれた。嗚呼良かった、此の時ばかりは、西洋被れで良かったと、茜の趣味を喜んだ。
此れが布団とかでしたら、ええ私、茜を敷布団に敷布団を毛布にしてやる所でした。
私も何回か迷惑掛けた経験ありますが、此奴は一寸掛け過ぎちゃ居ないか?
ベッドの上でもぞもぞ動く変な生き物を眺めてました。
「苦しい…」
「は…?」
こらいかん、吐かれるのだけは困る。何が悲しくて酔った妻の下呂等夫の私が片さな為らん。盛大下呂に顔面埋めて窒息死為さって下さい。
したら此れ、吐く予兆では無く、洋服が苦しいと云う詰まらんアレでした。
何で洋服が苦しいねん。
と思ったが、私とて背広は苦しく感じるので此れは仕方無い事だと、先ずは首に巻き付く襟巻きを解いた。茜は少し息を吐き、背中を捩る。
「一寸待って、一寸待って。此れ、何処から脱がしたらええねん。」
スカートから脱がすか、シャツから脱がすか、いいや先にコルセット紛いのベストを脱がそう。多分此れが苦しいのだ。釦ばかりで面倒臭い、着物でも着てろ、脱がし乍ら思うが長身貧相の茜には似合わんので諦めた。然しなんだって日本人の癖に着物が似合わんのだ。チャイニーズ系ジャパニーズの美麗の方が似合って居る。完全為る欧州人のヴォイドの方が何故に似合うのだ。
そんな妻の哀れな一面を考え乍ら、漸く脱がす事に成功した。ストッキングはなんか変な模様が出来て仕舞ったが。
指が貫通して仕舞ったなぁ、まあええか。
然し、だ。
スリップ脱がし終わった私は愕然とした。
なんだ、此の、見た事も無い形状の代物は。何故無い乳を隠してるんだ。
「え、此れ何?」
肩に掛かる紐を指に掛け、ぱちん、何故か知らん、私の眼鏡が吹き飛んだ。そうか、此の紐は私の顔面を叩く装置なのだなと、其処にはもう二度と触らん事を誓った。
「苦しい、此れが苦しいねん…」
いいや知るか。御前が好き好んで無い乳を隠してるんじゃ無いのか。
「如何遣って取るんですかね。」
「後ろ…後ろに…」
後ろ後ろ煩いのでひっくり返して遣ると、はい?此れは如何為ってるんですかね、釦なんか無いやないか。
「茜ちゃん、判らんがな。」
「あのねぇ…」
指で、此処、此処、と掻く、良く見たら小さなホックが密集して居た。細かい作業は得意中の得意だが、浪漫も糞も無い細かい作業に興味は無い。
だって、アレやろ?此れ外したら茜の貧相な乳が出るんでしょ?浪漫所か絶望や無いか。
「茜ちゃん…此れ、ほんま外したない…」
「もうねぇ、苦しぃねん…」
だったら自分で外しゃ良いじゃないか、眠いの堪えてやってやってんだ、そんな健気な夫に絶望与え何がしたい、永眠するや無いか。
折角ひっくり返したのに、のっそり起きた茜は、両足を腰に、両腕を首に掛け、外せ外せと煩い。
「阿呆か、頭打つがな、其れ以上阿呆為ったら僕如何したら良いんですか。」
既に末期なのに。
反る背中に手を当て、ほんまに此れは如何したら良いんだ、頭打たん様に片腕掴んだ侭暫く考えた。
「あら…?」
ふっと下を見ると、あらなんだい此れは、茜の乳が茜の物と違う。前と後ろの違いさえ無い貧相な乳、其れが吃驚、小さく膨らんでるではあーりませんか。
「え、一寸此れ何?」
両腕離した、したら茜は盛大に頭を打ち付けのた打ち回った。
「何すんねんッ、痛いや無いかッ、糞死ねや丸眼鏡ッ」
「自爆やないか。いー、一寸待って。」
興奮した、新たな発見に興奮した。矢張りね、浪漫は要りますね。
「何で御前、乳あんねん…」
「あるわッ」
「何時も無いやないか。」
頭痛がる茜に構う事無く、私は其の膨らみに触れた。
「………乳や…ッ」
ええ此の柔らかさ、形状、何処を取っても乳其の物、ええほんま有難う御座居ます、まさか生きて乳を拝めるとは思いませんでした。茜やけど…。
「いやん八雲さん、もっと触って。」
「…………くッ」
無性に腹立ったので、今度は私が電光石火に頭叩(ハタ)いて遣った。しもた、阿呆ちゃん為る…。
「何で叩くのん…、然も本気や無いか…」
「…御前が…気持悪い…声…出すからや…ないか…、ゾッとしたわ…」
「やからて、ほんまに…、本気で嫁の頭叩く奴居てるか…」
「御免、其れはほんま御免…」
然し私は下劣なので、乳に又触った。
「八雲…、ほんま最低やな…」
「え、何が。だって乳ですよ。乳に悪いやないか。」
折角存在して居るのに、茜に気を向けて居たら乳様に申し訳無いでは無いか、判らんのか。判らんか、だって御前は持ってないのだからな。
頭叩いて乳を触るとは、此れ強姦に近いが、まあ気にしない。
「おっほー、乳や、ほんまや。」
「苦しいのよ、八雲さん。」
「何で乳があるの?君、無いじゃないですか。」
「此れ此れ、此奴が乳作ってんの。」
何と。此の意味不明な装置が神に近い存在を作って居るとな。
何でも此の魔法の装置は、あらゆる場所から肉を集め、乳を作ると云う、全く素晴らしい代物なのです。
ん…?
然し君には肉等何処にも無いじゃないですか。骨と云う骨が皮の真下にあるじゃないですか。
そうしたら何だ、無いなら作れば良い、の原理で(此れ日本人の気質)、肉の変わりに綿を使う。すると茜にも乳が出来ると云う素晴らしい仕組み。
「詰まり外したら…」
「そ。何時もの茜ちゃんに戻りますよぉ。」
「一生付けとれや。」
「付けてるがな、何時も。」
「はあ?嘘やん。何時御前の乳が乳に為ってん。」
何時見ても我が妻の身体は前後ろ違いが無い、嘘も大概にして貰いたい。が、事実を知った時、茜では無いが涙が出そうに為った。
余りに小さいので、服を着たら全く判らない。然も今は冬、厚着をする為、益々判らない。全くの無駄に終わって居る。
「茜ちゃん…」
「暫くしてたら寄せた肉が錯覚して乳ん為る。」
「もうええ…、もうええよ…」
此れ以上私を悲壮感で苛めないで呉れ。
「茜ちゃん頑張ってる、うん、無駄に。」
「無駄ちゃうわ。」
阿呆は阿呆為りに努力して居る、阿呆な脳みそしか持たない頭をひしと抱えてやり、もう頑張らなくて良いんだよと慰めてやった。
「いやぁ、でも良かったわ。」
茜はうふうふ笑い乍ら、私の肩に頭を擦り寄せた。
「八雲さんにあたしの努力判って貰えて。寝る時外すし。脱がされん限り判らんもの。」
「ちっこい努力、してたんですね。」
「ちっこいモンにはちっこい努力でええねーん。」
茜は云って、俯せに枕を抱えた。
然し此れ、本来は、乳の大きな夫人が安定感を求める為使用するらしい。無い茜がして居た、そら私も「一体何だ此れは」と云いたくも為る。
と、枕元に放置される夫人雑誌には書いてある。因みに外し方も載って居たので外して遣った。
ほう、こんな形何ですか。アイマスクに為りそうだ。別活用して遣ろうと思ったが「しなや」と云われたので、床に捨てた。
面白いなぁ、夫婦て、先が判るのだから。
「あったかくして寝為さいよ。」
「白虎ぉ、白虎ちゃあん。」
「煩い呼ぶな、寝てんねん、虐待すんな。」
「ほんなら八雲さん。で、ええ。」
で、良い、とは夫捕まえ何事だ。是非とも此の哀れな乳無し女に暖を頂けませんか八雲様と云え。したら一緒に寝てやらん事も無い。今日は寒いから。
「お休み。」
云う気配が無いので自分のベッドに入った。うわ…冷たい…。
「ええ、一緒寝よやぁ。」
「土下座したら寝たるわ。」
「あたしがそっち行く。」
「来んな。来んなて…もう…」
パンティ一枚の女と、何が悲しくて一緒に…。
一緒に…。
「嗚呼、温い…」
「ほぅらやっぱ、一緒寝たいんや無いか。うりうり、八雲さあん。」
「酒臭い…」
「煙草臭い。」
「煩いなぁ、一人で寝ろや。」
然し腕が離れんのだから不思議で堪らん。其れで以て私の布団はこんなにも重量あっただろうか。
「重い…息出来ん…」
「白虎、白虎さん…」
――いー、温い。
あら?白虎さん、洒落た耳当てしてらっしゃいますね。
「嗚呼、白虎、あかんッ、其れはお母ちゃんの乳当てやッ、高いんよッ」
――ほぉ、耳温い。
「へぇ、本来の機能ちゃう…?」
顎下でホック止めて遣った。
やっだ、可愛い。




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