そんな関係


「そう云う結論、為ったんで。僕達は子供作りません。」
両親は一度顔を見合わせ、不満はあるだろうが其れが八雲の人生なら致し方あるまいと頷いた。夜叉は、憔悴し切った虚ろな目で松山を一瞥し、然し私の両親同様頷きを見せた。一人位、私達二人が世話せんでも引き取る覚悟で孫を望んで居た夜叉、少し可哀相かなと思ったが、夜叉を喜ばすのが茜の人生では無いので知らん。
「仁さん。」
白虎に背を預けて居た恭子が、背中を浮かせ夜叉に詰め寄った。相変わらず夜叉からの寵愛加減を教える程恭子は煌びやかである。家長である長姉が発狂するのも頷ける。
「何や?」
「もう少し、待ってて。」
「ん?」
恭子を見る夜叉の目は、娘や孫通り越し、若い愛人を見る様優しい。
「わてが、茜姉の代わり、産む。仁さんに、孫抱かしたげます。」
「恭子…」
感激か、娘ですら云わぬ言葉を躊躇いも無く吐かれた夜叉の目尻は微かに光って居た。
「相手松山さんで無くても、二十歳、二十歳迄に絶対産みます。其れ迄、生きてッ仁さんッ」
両拳握り息む恭子に感涙してる所悪いが、夜叉は、今日明日死ぬ病人でも無いし、大病患って居る訳でも無し、其れ所か心臓刺されても死ぬ気配無い威圧感と後軽く百年は生きそうな出で立ちをして居る。恭子は今十三歳だ、最長七年、充分生きる。死んで呉れと願っても生きるだろう。
「恭子ぉ…ッ」
もう逸そ夜叉が産ませたら良いのでは無いか、茜に妹か弟が産まれるだけの話。両親はぼうっと床を眺めて居る。
「天使か、菩薩か、観音か、恭子ぉ…、絶対生きてるッ有り難い話や無いかッ、なあ松山ッ」
「へ。」
仏頂面で事務的に返事して居るが、最有力父親候補は、貴様だ松山。今日明日に仕込めと云われたら如何する積もりか。一言「へ」と答え、作る気か。
「だからな仁さん、父親探して来て。」
旦那、とは云わなかった、まさか恭子、本気で夜叉の為だけに子供を産む気か。すると松山が、ふいっと恭子に向いた。
「あら、俺は?俺の存在は?」
「へ?」
「俺と結婚するとかほんの数年前云うてたやん。」
「あ、嗚呼…」
すっからかんに忘れたのか、本気で考えて居ないのか、しっかりと結婚感を持ち始めた恭子は生返事した。
「一寸、一寸会長如何為ってますの。俺、会長の指示通り結婚しませんでしたよ。」
「あ?知らんわ。恭子、松山と子供作るか?」
「仁さんがそうせぇ云わはんならそうするけど。」
そんな恭子の態度に、私はふっと何かを思い出した。何か、いや違う、真横で茶を飲む茜の態度だった。
恭子が、茜と全く同じ人間に育って居た。恭子だけでは無い、松山も「会長がそう云わはったから」と軽く流した。
笑う夜叉。其の笑顔がどす黒い煙に巻かれ、其の隙間から月の光程の眼光を貰った。




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