ウェストウッド通り


月が、気持悪い程赤いと、イヴは思った。そんな月を見た所為か、初めて引いた口紅の色は、似た様な真赤。
一週間前、大好きな母親が死んだ。
母と子二人の生活、父親は記憶する頃から居なかった。素直な母親で、父親が居ない理由をはっきりイヴに教えた、私達よりもっとずっと大事な人の所に行った、と。幼い頃は意味が判らず、意味が判った時、顔も知らない父親に憎しみが湧いた。同時に、二人分以上の愛情を与えて呉れた母親の傍に一生居ようと誓った。
なのに、あっさり一人になった。
無理矢理に、歯車を狂わされた。
病死だったらどれ程良かったか。通り魔に襲われ、あっさりと死んだ。
決して裕福とは云えなかった、けれど人並みの生活と、以上の愛情で育った。
蓄音機から流れるラ・カンパネラ、ジャズピアニストの母親が、指慣らしと称して時間考えず弾いて居た曲。
母親が死んだ其の日も矢張り、月は赤く、母親の帰宅を待つイヴの周りには其の曲が流れ、母を纏う血の海は、月の色を蓄え赤みを増していた。
母を殺した男に復讐を。
自分達を捨てた父親に復讐を。
全ての男達に、復讐を。
真赤に色付いた口は歪み、目に狂気を宿した。
たった一人の少女が、母親の死をきっかけに、国を震撼させる殺人鬼になろうとは、赤い月だけしか知らなかった。

「許さない…絶対に…。絶対に……!」

震えたイヴの怒鳴り声が部屋に響き、一体誰がイヴの心を知ろうというのか。
赤い月が霞んで見えるのは、決して涙等では無かった。




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