神の悪戯 悪魔の宴


結局俺の身体は戻らなかった。休暇開け一番に木島さんと会い二時間話し合って、次は英国軍上層部の会合だった。三十分前に一人、俺は書類を纏めたりホワイトボードに要点を書いたりと、準備をした。十分前、一番最初に来たのは海軍だった。空軍の奴等は時間にルーズで有名、期待等して居ない。
「今日の資料ね。」
並んだ順に資料を置いた。キースには、何も云わなかった。目も合わせ無かった。キースの存在を消す様に、ホワイトボードに向かった。
「遅れた?」
空軍の奴が一人、時間前に来た。
「いいや?珍しいね。」
「飛行テストだけしてた。」
「成程。」
だけど彼以外の空軍元帥は来なかった。資料渡し、暫く会話した。キースの真っ正面に立って居たけどキースは横を向き、横に座る奴と話して居る。俺に向けられない笑い声、耳を塞ぎたかった。
結局空軍元帥は彼一人で、一時間の会合は終わった。昼に差し掛かる頃で、昼食の話をし乍ら皆部屋を出た。俺は後片付けの為残り、俺って何だい、本当に雑用係じゃないかい。いいえ、良いんです別に、Not Royalですから。如何ぞ海軍空軍のロイヤルさん達は昼食の事でも考えて居て下さい。
座った並びで、キースが最後だった。一度も目を合わせず、今更合わせる気にも為れず、ホワイトボードの文字を消した。ドアーが閉まる音、肩の力を漸く抜ける時が来た。中途半端に消したボードから手を離し、「面倒臭い」、大きな溜息と一緒に吐いた。
「何が。」
一人だと思って居た。ドアーは閉まった筈なのに、キースが其処に居た。
「なんだい…、居るなら居るって云って呉れよ…」
「うん。」
だからもううんざり何だよ、其の「うん」は。聞き飽きたよ。
苛立ちが抑えれず、ボードの端を掴んで乱暴に消した。何か云うなら未だしも無言で、俯いて、何がしたいのか判らない。
イレーザーを放り投げ、机に並ぶ書類や資料を引っ掻き集めると、邪魔、とキースを見ずにノブに触れた。
「待って。」
掴まれた手が痺れ、息が詰まり始めた。ミスターが教えて呉れた通り一度止め、言葉を待った。
「御免。御免ヘンリー。」
「別れの言葉?俺も御免だよ。」
ドアーを引こうとしたがキースが手を付いて押した。ばたんと、良く響いた。
「うんざりだ。」
漸く視線を合わせられたってのに、睨み付ける状況って如何云う事だい。
「君の気持は良く判った。出て行くよ。マシューは渡さないから。法律上は俺の息子だ、問題無いだろう。」
ドアーを押し付ける腕を外そうと掴んだ。あっという間の事で、驚いた。ドアーから離れた腕は大きく伸びると俺を抱き締め、引き寄せられると口を塞がれた。其の侭力を込む、足が少し浮いた状態で後ろに移動した。天井が見えて、ソファの埃っぽさを鼻に知った。
口を離したキースは俺の両頬を掴み、額を付けた侭、俯いた様に見える状態で「御免」を吐いた。
「もう良いんだ、キース。」
「御免…」
「別れ様、此の侭。」
考えを口に出すのは勇気が居る。ネガティブな事は一層、胸が苦しく為る。
キースは、泣いてた。
青い空から、沢山の雨を降らした。泣き乍ら俺を抱き締め、閉ざされた未来を歎いた。こんな筈じゃ無かったって、自分に言い聞かせる。
良い子だね、キース。其れで良い、其れで良いんだよ。俺からゆっくり身体を離せば良い。俺への思いを波に流せば良い。そうしたら屹度、何処かの海辺に着いて、誰かが拾って呉れるさ。俺より君を愛して呉れる人が良いな、君を泣かせない人。俺の大好きな青空を崩さない人。
早く忘れて、悪い夢だから。
悪い夢だから、俺は泣かないよ。だから君も泣かないで。
波は穏やかだ、空も奇麗だ、碇を上げろ、出航だ。




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