神の悪戯 悪魔の宴


翌日、起きて暫く、自分が何処に居るのか判らなかった。辺りを見渡して居るとミスターが顔を出し、漸く自分の居る場所を思い出した。時間は昼を過ぎて居た。
ミスターはベランダに居た。
昨日はカーテンが引かれて居て気付かなかったけど、小さいプールがあった。小さいと云っても、十人は余裕で入れる広さ。子供なら泳げる。
一寸待って、だから木島さんの部屋を見たいんだって。
ミスター、未だ昼間ですよ。
「入るか?」
「いいえ、良いです。」
折角美女と楽しんで居るのだから、ベッドルームを使ったゲストは引き下がる。ミスターの腕に絡み付く美女、大丈夫、そんなに睨まなくても取らないよレイディ。
テーブルには、美女が食べ散らかしたであろう軽食とシャンパングラスがあり、横に手付かずの食事があった。クロッシュを開けると、野菜を絨毯にしたサンドウィッチ、白い小皿にはヨーグルトとフルーツ。ラベンダー色のカードには“Please”と書いてあったので、俺のだった。
ヨーグルトを食べて居るとベランダから聞こえるは、美女のキャッキャッ。畜生、俺は虚しくヨーグルトを食べて居るのに。フルーツの入った皿を持った侭窓際に立ち、無言で食べ乍ら二人を見た。
幾らだ、幾らでミスターに買われた、此の売女。御前、知ってるぞ。ミスターが英吉利に居た頃、しょっちゅう呼ばれてた娼婦だろう。
美女は又笑顔を無くして、ミスターを見ると無言でプールから上がった。
ぶるんって、メロンみたいなおっぱい。水を弾き、此の肌の感じ、君十代だろう。そんな仕事は即刻辞め為さい、親御さんが悲しむよ。
美女は俺を見(此れは睨み付けられた)、俺の胸を見ると「はっ」、中に入ってシャンパンを飲んだ。
「俺のちっぱい馬鹿にするなよっ」
「あっはっはっ」
ミスターは盛大に笑い、続けてプールから出た。鎖骨の浮いた首筋には水が溜まり、長い手足に流れる水、太陽の光に反射する水はキラキラして居て、背中に張り付いた髪、嗚呼もう堪らない。椅子に座りシャンパンを飲むミスターの髪を、美女が拭いて居た。一見すると、恋人達の楽しい午後の一時、俺アウェイ。
「ローザ。」
ミスターは煙と一緒に其の名前を口にした。美女は相変わらず髪を拭いて居る。
「何ですか?」
「何処に行きたいか、決まった?」
美女は気付いて居ないのか、将又世間知らずか、髪を拭く。ハロルドは男性名、美女の手前ミスターは、“ローザ”と呼んだ。此れだと性別が判らないだろうから。其の通り美女はなんにも気付いて居なかった。其のからっぽそうな頭を機嫌良く揺らして居た。
「ええと…」
美女の変わりに俺がプールで遊びたい。そうは思うけど、云えなかった。
「寝てて、良いですか…?」
「Okey.」
ミスターは笑って居た。美女はタオルを置くと水着の上からシャツを着、スカートを履いた。
楽しかったから十二時過ぎた分の料金はサービス、云ってミスターの頬にキスをした。
ミスター、君って人は。
俺が疲労で泥の様に眠って居る時、ゲストルームでちゃっかり楽しんでたね?だからあんなにベッドルームを使えって云ったんだね?半日分の料金、幾らだい。払うよ。
「あら、優しい。」
「ミスターだけ、じゃあね。」
今度は美女、唇にした。
其れが、凄く羨ましかった。
ドアーを締めたミスターは頭を掻くと欠伸し、ベッドに寝た。
「疲れた…」
そらそうでしょうよ。だけど俺は、やっぱり云え無くて、「御疲れ」って顔を覗いた。ミスターは目を暝った侭俺の頭を撫でて、嗚呼、駄目。唇を重ねた。
「して来ると思った。」
掠れたミスターの声は背中を這い上がり、駄目だって思うのに、被さった。抵抗も何も見せないでミスターはベッドに寝て居た。其れを良い事にキスをして、誘った。興奮も艶も、何も無い目を俺に向け、鼻先を掻く。
「別にしても良いけどさ。御前、其れで良い訳?」
さっき迄居た美女と同じ扱いに為るけど良いのかと、俺に云う。男は簡単に、好きでも無い女と寝れる。思考と下半身は全く別の生き物で、一寸ばかし良い女だったら“誘え”って命令が来る。楽だけど、楽じゃない。
「良いよ、其れで。」
ミスター、俺は君に何も求めて無いよ。シャギィみたく愛して欲しいとも思わない。一回づつの関係、其処に愛を延長させちゃいけないんだ。少しの間だから良いんだろう、短時間の愛を作ってる。
ミスターが作る偽りの愛は、本物の愛と錯覚するね。




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