神の悪戯 悪魔の宴 U


矢鱈天井が高く感じた。ベッドに座って居るからだろうなと背伸びし、ベッドから起きた。
俺達は男だ、化粧はしない。然し、意外と便利良いんだよ、と寝室にはリンダの飽きたドレッサーが置いてある(そんな、男二人で物色出来る訳無いだろう)。引き出しも付いているし、鏡の前には物が置ける、少し離れれば全身が見える。なので非常に便利が良い。
其の鏡に映った自分。
何時もなら、肩も映らない。なのに今日は、はっきり顔を拝めた、椅子に座ってないのに、だ。
素通りで、まあ見間違えだろう、と数歩下がり、横を向いた。
見間違えでも何でも無い、男前が其処には映って居た。今日も中々にダンディだ、俺、等と恍惚として居ると、視界端に不愉快な物を見た。
羽織ったシャツ、何時もならすとんとした場所が、山の如く盛り上がって居る。心無しか、シャツの裾が尻を隠して居る。
「シャツのサイズ、間違えたか…?」
いやいやまさか、俺の着衣は下着に至る迄オーダーメード、サイズ違い等存在しない。
腕を下ろすと、袖先はすっぽり指を隠した。
「え…………?」
申し訳程度にしか覗かない蒼白した指先を見詰め、疑問を発したナイスボイスは、嫌に高い。意を決し、シャツを脱いだ。
世界が爆発した。
「いやあああああ…………っ」
少女の声が部屋に響き、一足早く起きて居たヘンリーは、泡塗れの顔で剃刀持って現れた。
「一寸キース如何したのっ、百足かいっ?」
ならば此の剃刀で八つ裂きじゃ、剃刀シュッシュ、顔面シェービングクリームに塗れさし、御前は朝っぱらから何を遣って居るんだ、俺の世界は崩壊したと云うのに。
「朝から全裸で、何してるんだい。」
「ヘンリー…っ」
俺は全く誠の馬鹿だ。剃刀持ったヘンリーに全裸で抱き着き、危うく八つ裂きにされる所だった。
「うわ、あ、あ、あ、あ、ディアナ何してるんだいっ、朝っぱらから全裸で人ん家で、寝室でっ。御機嫌取るのは寝室で、は其方の家訓かいっ?」
額にべちゃりと泡が落ちた。
百足の方が未だマシだった。百足よりも嫌いな女が鏡には映って居た、然も俺…………っ
「違う違う、ディアナじゃないっ」
「一寸一寸止めて呉れよ、俺は女の子興味無いし、君も同性愛者だろう?第一キースにこんな所見られたら…」
云って、剃刀を危険と察したヘンリーはドレッサーに置き、辺りを見渡した。起きた時には確かに居た俺、シーツの暖かいベッドは蛻の殻で、昨晩の余韻をじっとり残している。
寝室から出た気配を感じて居ないヘンリーは、当然寝室には未だ俺が居る筈だと辺りを見渡す。然し見当たらない。
当たり前だのクラッカー、其の御目当ての人物は、全裸で御前に抱き着いて居るのだから。亜米利加土産の先住民が、ベッドの上から俺を見詰めて居た。
「あれ、キースは?」
成る丈、俺を見ない様に顔を逸らした侭(此れはヘンリーの女体への嫌悪では無く、ヘンリーは女体耐久があるので、レイディの裸を見るのは失礼に当たる為)、身体を離し、タオルケットを羽織らせた。
寝室から出、廊下を歩き、今さっき迄居たバスルームとリビングを見た。リビングと寝室しか無いってのは捜すには便利が良い。二人で住むには一寸狭いが。
「一寸ディアナ、君が居るのは此の際良いや、キースは何処?」
「此処に居る。」
「うん…?うん、君は居るね、何で居るかは知らないけど。俺が探してるのは西班牙の情熱を全身に宿す魅惑的なレイディじゃ無くて、威圧感の塊何だ。」
「だから、此…処…」
最後迄云えなかった。訳も無く涙が溢れた。涙の所為で最後迄云えず、俯くと女体を直視して仕舞う恐怖に又泣いた。
何だ此の胸は、メロンみたいだ。ディアナは何だ、毎日こんな物を左右からぶら下げ歩いて居るのか。
何たるモンスター、隔離しろ。
「一寸一寸…泣かないでよ…。キースは良いや、もう。ディアナ、ね?如何したの?在の西班牙美女と喧嘩した?」
だから違う、ディアナじゃない。あんな西班牙女(ディアナのパートナー)、会話さえした事無い。間違えられた悔しさに男泣き。
「ディアナぁ…」
唯泣くだけの俺を、クリーム塗れのヘンリーは(早く取れば良いのに、痒いだろうに)、優しく抱擁して呉れた。タオルケット越しのヘンリーの体温は其れは暖かく、又クリームが顔面に落ちた。褐色の肌にクリームは目立ち、「そうだそうだ、俺、髭剃ってたんだ」とタオルでクリームを拭いた。
「でさぁ、ディアナ。」
「ん…」
此れは肯定の返事では無く、涙を拭かれた事に依る反射的な声である。
「一応此処に居るって連絡入れとくよ?何で出て来て、尚且全裸で寝室に居たのかは判らないけど、在の彼女も心配してるだろうから。」
タオルケットの端で鼻を擦り乍ら、混乱した頭を沈め様と努力した。
「ええと番号番号…」
俺の手帳を勝手に(当然だが)捲り、目当ての番号を捜す。
俺は混乱して居た。家に電話を掛ければ本物のディアナが居る、止めに入る事もディアナが居る事も忘れ、唯々混乱した。ぐずぐず鼻を鳴らし、電話を掛けるヘンリーの背中を眺めた。
何だろう、何時も見ている背中だが、矢鱈格好良く見えた。横から見る鼻筋、一寸上を向くとかなり、一層、益々格好良い。最上級のオンパレード、朝っぱらから鼻血が出そうだ。
「ヘンリーですけど…」
『おやハロルド様、御無沙汰を。如何されました?』
「あのぅ、ディアナ、ね…?」
『ディアナ様ですか?』
こんな会話を上の空で聞いて居た五分後、ヘンリーの悲鳴に困惑した頭が漸く、本物のディアナを思い出させた。
『オーラ、ヘンリー。如何したの?』
「はあ………っ?」
揺れる緑色の目が俺を捉え、
「君は誰だ…」
はっきりと云われた。




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