神の悪戯 悪魔の宴 U


「詰まり、君は、キース…何だね…?」
一から事情を、とは云っても朝起きたら女に為った、と云うだけの話しか出来ないが、説明した。ヘンリーは煙草を咥えた侭半信半疑、頭のおかしい奴の話を聞く様な顔で聞いて居た。
「ディアナより美人だろう?」
「は?ディアナの方が美人だよ、だって彼女はチャーミングだからね。」
「悪かったな、威圧感しか無くて…」
「うーん…」
一人用のソファに座り、ヘンリーはベッドに座らせた俺を見る。
ヘンリーは、嘘、とは断言出来無い顔をして居た。其の理由は簡単、腕にあるタトゥーと、耳裏にある黒子。こんな悪趣味なタトゥー彫る奴何かキース位しか居ないと、悪趣味に悪趣味を重ねる美意識の欠片も無いヘンリーに云われたタトゥー。
「判った、君がキースなのは判った。」
女体耐久があるからか、唯単に阿呆だからか、ヘンリーはすんなり認識し、煙草を消した。
唯、女体耐久の無い俺は死にたい気持に為った。一秒でも此のモンスター紛いの胸をペタンコにしたい。此れは暴力だ、視界の暴力に値する。
「キース。」
「ん?」
「何か食べる?」
「いいや、良い…」
こんな悍ましいモンスターを無理矢理視界に入れさせられ、食欲も糞も無い。吐き気しか催さない。
俺の服は明らかにサイズオーバーな為、ヘンリーのシャツを着た。其れでも大きかった。
一寸待て、どんだけ身長縮んだんだ…?
ヘンリーの身長は一七0センチ、気に為ったのでヘンリーを立たせ、ドレッサーの前に並んだ。
涙で何も見えない。軽く頭一つ分は違う、三十センチは縮んで居る。元が一八0センチ超えて居た為其のショックは隠し切れない。
「こんなの…俺じゃない…」
「ううん、小さいね。」
こんな身体で在の軍服等着れない。今は冬だ、下にセーターを着るのでジャケットは少し大きめに作ってある。シャツだけでも在の感じ、サイズオーバー所の騒ぎでは無い。
軍服…。
そうだ、軍服。
仕事、如何したら良いんだろうか…。
こんな姿で行けば周りが卒倒する。施設の奴等は元から周りに興味が無い為気付かないだろうが、在のアーティストに仕返しはされるだろう。「ジーザス、神って最高だぜ」とか何とか云って。
「ヘンリー…」
初めてヘンリーを、立った侭見上げた。ヘンリーも新鮮味があるらしく、笑いを堪えて居る様な顔をする。
「何だい…?」
「仕事、如何し様…」
指を擦り合わせ、唸った。
「暫く、休めば…?」
「暫くって?何れ位…?」
「治る迄…?」
簡単に云って呉れるが一生戻らなかったら…?
考えただけで涙が滲み、真っ暗だ。
「戻らなかったら…?」
俺のプライドは最早八つ裂きにされた。逸そ軍服を八つ裂きにして遣ろうか考えた。
ヘンリーはちろりと横目で見、優しく頭に手を置いた。
「其の時は…」
置かれた頭はゆっくり下に流れ、頬を撫でる。
「養ってあげる。」
きゅん、と来た。胸がきゅんと為るとはこう云う事を云うのか。心臓が左右が握られた様に縮み、血を素早く巡らす。顔は熱く為り、指先は痺れ、ヘンリーの笑顔と云う砲弾が心臓に打ち込まれた。呼吸も儘ならなく為った俺は俯き、小さく頷いて見せた。
余りの素直さにヘンリーは気味悪がり、数歩引く。
「もっとさ…普段通りに…、調子狂うな…」
女に為っただけでも調子狂うのに、性格迄も変わって仕舞ったら、其れは最早俺の好きなキースじゃない、と迄云われた。
そうは云われても、行き成り大嫌いな女に為ったんだ、頭が追い付かない。昔、父親に従って居た時の様に、ヘンリーの言葉に従うのが、何も考えずに済む事だと認識した。
「俺は、如何したら良い…」
「取り敢えず俺は仕事に行くよ。」
遅刻だけど、と時計を見せる。俺もそうだ、暫く休むと施設に連絡を入れなければ。
「グレンだったら良かったのにね。」
在のトランスジェンダーのグレンなら発狂して喜び、乳房を惜し気も無く晒し歩く痴女と化しただろう。全くそうだ、神も、如何せ暇潰しにこんな悪戯をするのなら、望む相手にして遣れば信者の一人は増えるだろうに。
連絡を入れて居る俺の頭をヘンリーは撫で、頭の頂に唇を押し付け乍ら胸を鷲掴み、出て行った。
がらんとした部屋。
何もする事が無い。本を読む気持には到底為れず、仕方無しベッドに寝た。毛布引っ掴み、芋虫の様な形を取った。シーツからはヘンリーの匂いが立ち込め、篭った。全身を包まれて居る気分で、ショックの疲れが現れ始める。
「ヘンリー…」
聞こえるのは俺の声とは思えない声で、何だかディアナに似て居た。暫くうつらうつらして居ると電話が鳴り、重たい身体を引き摺り、出た。
『ヘンリー?』
「ディアナ…」
先程の電話が気に為ったディアナは、何故掛けて来たのか理由を聞く為掛けて来た。
『…ん?ヘンリーじゃないね。誰?』
俺の声なら誰よりも判るディアナ、其の声で無いのと俺でもヘンリーでも無い此の家の電話に出た不審な声に、ディアナの声色は微妙な変化を見せる。
『貴方、誰?』
「ええと…」
素直に云った方が良いのか、然しそんな馬鹿げた話に付き合って呉れる程ディアナは優しく無い。馬鹿にするなと罵られるのは判って居た。なので俺は、
「ヘンリーの、友達、です。一寸、泊まってて…」
『え?キースが良く入れたね。』
仕舞った、俺は馬鹿だ。弱点である女を、幾らヘンリーの友人とは云え入れる筈が無い。
ヘンリーの交遊関係は俺と違い広いから、友達が沢山居る。其れを考えて仕舞ったから“友人”と出して仕舞った。
「あー、ええと俺、十代何です…」
十代の、尚且変声前の少年である事にした。
『あ、男の子か。吃驚した。家出したの?』
「そう、です…。でも、帰ります。見付かっちゃったので、母が今日迎えに…。屹度凄く、怒られます…」
『馬っ鹿だぁ。』
家出の場所にヘンリーを選んだら連絡するに決まってるじゃん、だって彼は優しいから。今度家出する時は家に来な、連絡しないから、と家出常習犯だったディアナはからからと笑う。
ヘンリーが電話したのは俺の誕生日を知りたいから、と云う事にして於いた。実際ヘンリーは、俺の誕生日を知らないから。
律儀に答えて呉れたディアナに、
「伝えて於きます。」
伝えると、
『反抗期には沢山反抗しな。反抗してなんぼだよ。そしたら、良い大人に為る。あたし、弟居るんだけどさ、此奴、反抗期に反抗を全くして無いから、最悪だよ。ずっと虐められてたから友達も居ないし…。傲慢の偏屈だけど根は良い子なんだ、嫌いじゃなかったらさ、キースとも、友達に為って?』
沢山の心配を貰った。
電話を切った瞬間、ディアナの愛が目から溢れた。
一寸は素直に人生歩けば…?
そんな声が何処からかした。人生に遣り直しが効けばな、と何度も思った。余りにも素直じゃ無かったから。
書類は間違えれば修正が効く、けれど人生はそうは行かない。今更此の性格が改善する筈が無いと思って居た。
素直な俺は最早俺では無いとヘンリーは云うが、一寸は俺にだって、改める心位は持ってるぞ…?




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