maid in Japan


何故俺が態々日本からビデオカメラを送って貰ったか。
英吉利にだって、勿論高性能でスマートなビデオカメラは沢山ある。けれど日本製程小さくは無い。掌サイズの此れは、此の時に良く役立つ。
「カメラ回すか、セックスするか、何方かに絞ってくれないか…」
「やだよ。此の為に送って貰ったんだから。」
「レンズで、集中出来ないんだが…」
「視線が二つあるみたい?」
膝に噛み付くとキースは悲鳴に似た喘ぎを漏らし、瞬間背中をよじらせ何かから逃げた。
「何だ…此れ…。此のバイブも日本製とか云わないよな…」
「バイブ…?そんな物…あ、電話。御免、ミスターだ。はいはーい、もしもーし。」
最悪だ、とキースは脱力し俺から逃げ様としたが、しっかりと足を固定し、カメラをベッドに置いた。流石に俺は、千手観音では無いので、カメラとiPhoneを持てば両手は塞がってしまう。
「一寸、おい…。冗談だろう…?」
空いた手でキースを愛した。唇を強く結ぶキースの息を首で感じ、鼓膜にはミスターの声。レンズの視線に、丸で複数プレヰみたく感じた。
『悪い。今、仕事中?』
「いいえ。今日は日曜ですよ。」
『嗚呼。』
ミスターは笑って、完全に時差を忘れて居たと、俺の鼓膜を震わせた。目の前にはキースが居るのに、俺はミスターとセックスをして居る気分になる。
キースのバリトンとミスターのバリトンは、少し違う。
キースは、床から足を伝い、全身に心地好い振動を与えるウッドベースの様で、ミスターは、アコースティックギターの低音みたく其の侭ダイレクトに全身を貫く。
俺は其の二つの低音を天秤に掛け、結局ウッドベースを選んだ。
「済みませんがミスター。今、少し手が離せなくて。」
含み笑い、言葉通り離せない手を少し動かした。
『悪い。じゃあ手っ取り早く。キースってシルバニア好きか?』
「シルバニア?」
其れが一体何なのか判らない俺はキースに電話を渡し、其の侭足にキスをした。
「止めろよ…。いえ、何でも。」
頭を思い切り押された。
「シルバニアって…、在れか…。シルバニアファミリー。」
『そうそう。好き?ドールハウスが好きだから、好きかなって。琥珀に買った奴何だけど、気に入んなくてさ。プレゼント包装のまんま。』
「好きと云ったら好きだが、詳しくは知らない…」
『そう。判った。Good luck.』
「Good luck.」
又ミスターの声を聞けると思って居たが、余程忙しいのだろうとミスターの配慮で其の侭電話は切れた。
「切ったね…?」
「向こうが切った。何?井上とセックスしたい訳?」
キースの眉間の皺はセクシーで、そっとキスをしたが中々機嫌は直らない。
カメラを手にしたキースはゆっくり俺の下から抜けると、其の侭俺の頭をベッドに押さえ付けた。
「撮ってやるよ。」
「奇麗に撮ってくれよ。」
キースが云う様に、レンズは妙に興奮する。顎から首筋を、唯撫でられて居るだけなのに、身体は自然と熱くなった。
「偶には、攻められるのも、良いだろう。」
「最後は代わってよ…」
キースを見て居るのかレンズを見て居るのか、俺は良く判らなくなり、唯視線を流した。
テクニックが凄いのか、カメラの相乗効果か、兎に角身体は熱くなる。何十人の男が此の手に絆され、爪を立てられ、そして唇や舌で愛でられたか知れない。
「やっぱり…止めてくれないか…」
「中々拝めないのにな。」
其れでも希少な映像は撮れたとキースはカメラを再度ベッドに置き、俺を跨いだ。
幾人の男がキースを知って居る。けれど、此のキースは、俺しか知らない。
奇麗に歪む顔も、バリトンがテノールに変わるのも、キティちゃんが好きなのだって、俺しか知らない。
ベッドに置いたカメラの電源を知れずに切ったのは、独占欲だよ。




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