神の悪戯 悪魔の宴 U
だらりとベッドに伸びる腕、金色の産毛が血の呼吸の様に波打つ。指を這わすとしっとりとした感触を知り、其の侭上に滑らせた。肩の盛り上がりを確かめ、首筋に流れるブロンドを太陽に透けさせた。
一寸待て。
俺はブロンドじゃない。
ヘンリーの腕だと疑いも無く触って居たが、此れは紛れも無い俺の腕。
「は…………?」
レースのカーテンは床に模様を作り、俺は踏んだ。恐る恐るドレッサーの中を覗く。
「…………ジーザス…」
女より最悪な生き物、鏡にはそう、父親が映って居た。
まさかそんな、一昨日迄は黒髪で男、昨日は女、今日はブロンドだと云うのか。見下げたモンスターは、消滅して居る。其れは非常に有り難い話だが、ブロンドに為る位ならモンスターぶら下げて居た方がマシだったと思うのも事実。
「ヘンリー…」
暢気に涎垂らすヘンリーを揺すった。
「ヘンリー、おいヘンリー。」
「ん…」
寝返り打ち、薄く開いた目で俺を捉えると「嗚呼ベイリー公、御早う御座居ます」と枕抱えて背中を向けた。
おかしいと思わないのかヘンリーは、寝室に親父が居る事を。
思わない、と云う事は、何だ御前等、そんな朝を迎えた事があるとでも云うのか。
「ヘンリー、俺だ。息子の方だ、キース。」
「嗚呼キース…ブロンドも似合うよ…」
「出来れば似合いたくない、起きて呉れ。」
ぐらぐらと頭揺らすヘンリーを起こし、きちんと視界に入れさせた。ぼうっと俺を眺め、昨日、モンスターが居た場所に手を伸ばす。全く真平らな胸にうんうん頷き、ブロンドナイス、と又ベッドに寝た。
男には、戻った。其れは有り難いが、神様、御前ってとんでもなく暇で仕様が無いんだな。
「黒髪に、戻して来る…」
こんな時間から美容院何か開いてない。一体如何遣って戻す積もりなのかは考えて居ない。居ないが、一刻も早く此のブロンドを消したい。最悪墨汁でも被る。
目に止まったヘンリーの眼鏡。何故か手に取った。
待て、待て待て俺。何を血迷って居る。此の顔でブロンド、尚且眼鏡とは、何を朝っぱらから自虐噛まてる。馬鹿、馬鹿馬鹿待て、鏡何か、見るんじゃない。
「ヘンリー…」
「ブロンドのキース、超男前…」
其れは遠回しに、親父の方が男前だと云って居るのと同じ。
「ヘンリー…」
何だか声迄似て来た気がする。
はたと、ヘンリーは、色素の濃い男が好きじゃなかったかと思い出した。前に付き合って居た奴もそうだったらしく、施設での自称恋人のグレンも黒髪だった。在のアーティストがブロンドに固執する様に、ヘンリーも固執して居る。
昨日は女に為った、今日はブロンド、ヘンリーの好みを逆に行って居る。
ジーザス、此れは試練か。
御前って、本当に暇何だな。其の暇少し、分けて呉れ。
女の俺は愛して呉れた、果たして親父そっくりのブロンドの俺を、ヘンリーは愛して呉れるだろうか。ヘンリーが親父の事を余り良く思って無い事、俺は知ってる。
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