神の悪戯 悪魔の宴 U


普段着ているバスローブは余りに大きく、ヘンリーと交換した。又アイマスクを付けられ、又浮遊感を知った。
今度は寝室が薔薇の温室と化し、互いの肌から登る薔薇の匂いは俺の頭を熱くさせた。
アイマスクを付けた侭ベッドに座り、何やらヘンリーはドレッサーの引き出しを漁って居た。
「女の子の肌はね、オイルで包まないといけないんだよ、母さんが云ってた。」
女の肌と云うのは元からあんなに輝いて居る訳でも、良い匂いな訳でも無く、努力に依って作られると云う。使いはしないが匂いが良いからと、引き出しに入れた侭のオイルがあった筈、とヘンリーは探す。益々俺を女に近付け様とするヘンリーに、男として扱えと“命令”して見たが聞いて貰えなかった。
「何時戻るかは判らないけど、其れ迄、俺は徹底して君を完璧な女の子にする。」
「俺は男だ。」
「昨日迄はね。…あった。」
俺が座った時には揺れなかったベッドはヘンリーには揺れを見せた。
蓋を外した瓶を鼻下で往復させ、匂いを教える。如何にも、な女の匂いに噎せた。
「一寸待て、此れを俺に塗りたくる気か?」
悪夢を見る事間違い無しの匂い、柘榴の様な匂いがする。
「嫌なら良いけど、肌、がさがさに為るよ?」
そんな悪趣味な匂いをさせる位なら、がさがさの方がマシである。云うとヘンリーは凄く不満な声を出した。
「俺、がさがさした肌の女の子何か抱きたく無ぁい。女の子はさ、しっとりとした肌が良いんだよ。」
「やっぱり御前、何だかんだ云って、女好きだな。」
少し膨れて、顔を逸らして遣った。
「違うよ、キースが好き何だよ。」
「じゃあ良いだろ、俺って女は、がさがさしてるんだ。」
「糞…、キース改造計画が…。如何せなら、自分好みにしたいだろう…。在のキースは俺の思い通りに為らないんだから…」
「何?」
「独り言…」
俺の改造計画を諦めたヘンリーは瓶を床に転がし、「結局性格は変わらないんだ」とベッドに寝転んだ。
俺を思い通り、好みの通りに動かそうとは、全く無駄な。父親ですら結局出来無かったのだから、ヘンリーが一日二日で出来る筈が無い。
「ほら御出で、寝るよ。」
座った侭の俺の腕を引き、横に寝かせた。バスローブの紐を解き始めたのでまさかするのかと思ったが、バスローブの侭で寝る奴が居るか、と突っ込まれた。
「パジャマは?」
「着るの?」
「ヘンリーと違って、裸で寝る習慣は無い。」
「裸で寝たら良いのに…」
ヘンリーは既に裸だ、肌が体温を教え合って居るので判る。
渡されたパジャマの上を羽織り、枕に頭を乗せた。横に向いても下に向いても上に向いてもモンスターは存在を消さない。一体如何したらモンスターを考えずに安らかに眠れるか、其ればかり考えた。
「此のモンスター、如何にか為らないか。」
堪らずヘンリーに聞いた。
「大きいもんね。」
如何せ存在するならもっと控え目に存在して欲しい。俺のプライドを侭姿にした様な大きさ、謙虚に為れと云う方が間違いかも知れない。
起き上がり、椅子に座って寝た方が考えずに済むかも知れないと溜息を漏らした。
「ねえ、キース。」
「ん?」
アイマスクの取れた目元、エメラルドの海に重なる金色の波は月明かりを受け、艶めかしい姿を晒す。
「女の子の胸って良く見た事無いんだ。」
海は何処迄も澄み、穏やかに揺れ、汚れをちっとも見せない。
「は…?」
奇麗だ奇麗だと眺めて居たら、行き成り高波に襲われた気分だ。
「見せて呉れないかい?」
見、ヘンリーは如何したいのだろう。
「じょ…冗談じゃない。」
悪趣味にも程があるぞとアイマスクを奪い返し、背中を向けて寝た。執事…じゃない…羊を数えて寝て仕舞おう(バッカス等数えたって意味が無い、バッカスが百何匹…益々眠れない)。
項にぴったりと鼻先を付け、腰骨を触るヘンリー。パジャマの上だけしか来て居ないからか、直ぐ其処に指先の感触を知りそうだった。
腰骨に触れて居た手は太股を撫で、往復する。次第にパジャマの裾が捲れ始め、直に知った。
「すべすべ。」
「がさがさの間違いだろう。」
「キースは元の肌質が良いからね。ラテン系って狡い。」
狡い狡いと繰り返し、手は段々と上に行き、信じられない程抉れた腰に流れた。此れは女にしかない曲線だ、男の腰ってのは薄くても真っ直ぐに伸びる。
女は横に寝ると、恐ろしい程其処ががくんと下がる。
「うわ、細…」
耳裏で笑う声が反響する。ヘンリーが触れる程、此の身体が女であると認識した。
腰から流れ付いた其処、モンスターに伸び様とした時、俺は肩を揺らした。嫌でも其れがある事を自覚して仕舞い、情けなく為って来た。
恐る恐る伸びて来た手、ちょんと一度触り、俺が動かないからか大胆に鷲掴んだ。モンスターが潰れるのは意外と痛い。何だモンスター、御前にも痛覚はあったのか。唯のファットじゃなかったのか。生意気なモンスターだ。
「痛…」
「あ…御免…」
慌てて離れた手。痛みは未だじんわりとある。
「扱いが判らないな…」
「うん…」
判らないのなら放置すれば良いもの、ヘンリーはモンスターに執着を見せる。矢張り男、気に為って仕方が無い、と云うよりヘンリーはかなりのマザコンだ。在のセックスシンボルの母親を持つ、執着見せない方が間違いかも知れない。俺はアンチマザーであるから、モンスターは嫌いだ。
「世の男達に敬服するよ…」
手を離したヘンリーは仰向けに寝、良くもこんな勝手の判らない物を自分の物の様に扱える、と吐いた。
俺は寝返り、天井を見詰めるヘンリーをじっと凝らし、頭の下にある手を握った。
ヘンリーは、身長からして俺より手は小さい。其れが如何だ、俺の方が小さいでは無いか。此の手が全身を弄る―――身体が熱く為った。
「ヘンリー。」
「ん?」
天井から逸れた目、何も云って居ないのに其の目に促された。
パジャマの釦を一つづつ外し、脱ぎはしなかったが、開いた胸元に手を誘導した。扱う事が無理だと悟って居たヘンリーは案の定苦笑し、逃げ様とした。
「キースキース。無理だって。」
「俺だって限界何だ、こんなモンスター。」
今直ぐナイフで削ぎ落として遣りたい。
「でも。」
顔を寄せ、モンスターを握らせた侭唇を重ねた。
「御前が触ってて呉れたら、少しは気が楽に為る。」
「参ったね…」
ゆっくりとヘンリーの顔が上に為り、頭は枕に沈んだ。唇とモンスターはヘンリーに動かされ、肩からパジャマが落ちた。
足の間にヘンリーの身体が入り、薔薇の匂いに噎せる。苦しさと力の強さに眉を顰める事しか出来ず、息が荒がった。
「ヘンリー、ヘンリー…」
素肌に感じた体温に興奮した。何時もの様に臀部を撫で、掴み、凡ゆる所に落とされる唇、手の動きも息遣いも同じであるのに、妙な興奮を知る。何故だか考えると、其れは単純に、ヘンリーの力が普段より強く感じられたから。
全身で、支配されて居る。
轟々と熱が身体を渦巻き、熱に支配される。魘される。
「ヘンリー…ヘンリー愛してる…」
「其の声はキース何だよな…」
聞こえる声も張り付く肌も、首に絡まる腕も鼓動も、匂い迄も俺であるのに、俺と認識出来無いヘンリーは苦笑う。
「如何して女の子に為っちゃったんだい…」
躊躇う右手、太股を往復して居た。
何時もなら既に知る形、然し今は真平らだ。
「触れるか…?」
「んー…如何かな…」
口の中で反響する声、風呂場では興奮見せて居たヘンリーの其れは、此処では面白い程大人しい。
「なんせ、未知為る場所だからね…」
指先は内側に流れ、ぎりぎり迄近付いた。
つ…と触れた指先、俺は全身を揺らし、ヘンリーはぎょっとした顔で手を離した。
「何だい、此れ…」
指先に知った感触にヘンリーは蒼褪め、濡れた薬指を眺めた。
「え?此れ、何…?」
何故指が濡れて居るのか判らない俺達は、興奮から混乱した。
「何を漏らしたんだい…キース…」
「そう、云われても…」
漏らした自覚は無い。仮に漏らしたとして、俺は何を漏らした。失禁…?年寄りか。
あろう事か、ヘンリーは其の指を舐め様としたので、思い切り掴んだ。
「や、止めろっ。毒だったら如何するんだっ」
「毒っ?君は体内から毒を出すのかいっ?」
「いや、いや出さないけどっ」
女の身体等何を出すか判らない、月一日で血を垂れ流すんだ、毒位出しても不思議では無い。在のヒステリックは、嗚呼そうだ、毒が頭に回ったからに違いない。
「止めろ、兎に角止めろ。」
「だって、気に為るじゃないか…」
「御前は気に為ったら舐める癖を止めろ。」
ヘンリーには、気に為ったら嗅ぎ、舐める癖がある。其れをし様としたものだから、慌てた。然し、大丈夫、君のだから、と乾き始めたぬめりを舐めた。
「う…」
云わんこっちゃ無い。毒に違いない。強く目を暝り、一度噎せた。
「ほら、ほらヘンリー。」
「何かね…」
嫌いでは無いが好きには為れない味、でも何かに似てる味、と云う。
犬みたく舌を動かし、首を傾げる。唸るだけ唸り、結局思い出す事は無く、首筋にキスをした。
「如何にかして立たないかな。」
「立たせて如何する…」
「君とセックスするんだよ。」
俺がビーフシチューに拘りを見せた様な拘りを見せる。
「何で…」
「初夜にセックスしない夫婦って居るかい?」
在の陛下ですら、ハネムーンベイビィを産んだ、王室がそう何だ、一般市民も其れに従おう。等と意味不明な発言をする。
悪いが一般市民は、初夜よりもっと先に事を済ませて居るだろう。互いの母親を見たら瞭然だ。
「初夜…?」
「初夜だろう?此れは。」
思えば俺達、初夜から三ヶ月程して身体を重ねた。正直、何れが初夜か判らない。何となく、でヘンリーは家に来た。
聞き慣れない言葉に顔が熱く為り、腕で隠した。
「あ、照れた。」
デパートで新製品の玩具を見付けた子供の様な声色で赤く為った頬を突く。ヘンリーにして見れば、俺は全く真新しい玩具だろう。
「初めて見たね、君が照れるの。」
「煩い…」
「もっと見せて。」
解かれた腕、睨む様に見た視界に、満面の笑み浮かべるヘンリーが映る。
むっくりと、熱が太股に触れた。
とんでもない変態だ、此奴は。
「良し良し、元気に為って来たぞ。」
「もう良い…煩い…」
「煩いのはね、キース、…君だよ。」
一切の言葉を遮るキスを一つ、全身が溶ける様な、沈む様な、良く知る感覚を知った。
「ヘン…」
「良い子だね。」
俺に表情は判らない、自分では睨んで居る積もりだが、ヘンリーが教える俺の表情は、誘惑其の物。一寸意地悪に笑った時、其れは誘いの返事。
俺は如何やら、女に為っても淫乱らしい。ヘンリーを誘うのは変わらない。
「ヘンリー、触って…」
「何処を?」
「何処でも良い、何処に何があるか判らないんだ。御前の好きにしろ…」
「良いよ、キース。」
男だろうが女だろうが、ヘンリーの前では関係無い事だと知った。俺が素直にヘンリーを愛し、欲して居れば、ヘンリーは愛して呉れる。
俺が俺で居れば、問題は無い。
傲慢に怠惰を重ねた俺の愛。
貪欲に貪るヘンリーの愛。
嫉妬は怒りを孕み、官能を産む。
此の七ツの大罪、罪を一層濃くさせるのは「愛してる」の一言。未来永劫、捕われ続けるであろう。




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