極道だって人間だよ!
「恭子、楽しかったかあ?」
翌日の昼過ぎ、土産を大量に持った恭子が帰宅しました。如何せ後三日で帰るのですから、其の侭松山と居れば良いのに、と思うのですが、危険過ぎる、と茜が云います。
「あんなあ、あんなあ、ベルにおうてんっ」
一番好きなプリンセスに会ったと、恭子は興奮し、写真を見せて呉れます。嗚呼、黄色いドレスが眩しい。可愛い、可愛過ぎる、此のプリンセス役の人。流石はベル。美女と呼ばれるだけに可愛いです。
大量の土産は大阪に持ち帰る物全てだから、と思ったのですが、全てわいへの土産でした。恭子のは、と云うと其の侭大阪に送ったらしいのです。
「松山はん…」
「はい?」
「昨日…なんぼ使こたん…」
「さあ…」
「甘やかすなやぁ…」
「つい、ね。」
あはは、と笑いますが、笑えません。此の二三日で百万近く動いて居るので無いでしょうか、知りませんが。将来、恭子が大きく為った時、元を取られるのでしょうか。
「恭子。」
「何?」
「ほんまに松山と結婚したい?」
「え?何で?あかん?」
「此奴、変態やぞ。」
松山に背中を“見えない様”殴られ、少し噎せました。極道のパンチ、意外と痛いです。茜は笑いを堪えて居ます。恭子はぽかんとわいを見上げ、電話を弄ります。わいに見せる写真を選んで居るのです。
「そんなん、やくにぃもやんな。」
「ちゃう、わいは松山程変態ちゃう。」
今度は足を踏まれました。伊太利亜製の靴、痛いです。
「背中に龍居てるぞ。」
「あ、知ってる。」
今度は何も危害加えられませんでしたので、思い切り睨んで遣りました。
手ぇは出してない?
抜かせ。
ほんなら何で知ってる。
チンピラ紛いに睨んで居ると、一度視線合い、逸らされました。
猫の喧嘩して居る訳では無いんです、逸らした松山の負けぇ、ちゃいます。
流石の茜も引いて居ます。背中の龍等、余程の事が無いと見れないの、茜は知って居ます。抗争の在の時、一度しか見た事無い、と茜は云います。其れを恭子が見て居るのです、茜とて引きます。八雲以上の変態だと。
「昨日…」
「は?手ぇ出したんか?」
「ちゃいます…」
「ちゃう事あるか。」
「風呂上がったら、抱き着いて来て…」
「ヤッたんか?あ?松山。女やったら誰でもええんか。汚いの。」
茜も加勢して呉れます。
「バスローブ、開けた…。其れだけです。いや、慌てて隠しましたよ?隠しましたけど…」
「けど何や。」
「他人によぅ見せたらあかんもんて位、あんた、何年極道してんの。」
わい等二人に凄まれ、たじたじの松山を、恭子の大して大きくない目が見上げます。
「見たら、あかんかったん…?」
「あかん…事は無いよ。けど、あんま見てええもんちゃうわな。」
「そっか…」
茜に諭され、本気でしょげる恭子。悪いのは松山なのに、わい等が悪い人の様感じます。
「ほんま、奇麗やってん…」
「判るよ?あたしかて初めて見た時、こんな奇麗なもんあるか、て思たよ?けど、見てええもんと悪いもんて、あるんよ?」
子供の記憶とは、尾を引きます。奇麗と記憶した其の所為で、松山以外の極道に惹かれては困るのです。同じに龍を彫った男に惚れたら?ベッドの中で「あたしの初恋の人、あんたとおんなし龍あったわ」とでも云うのですか?温厚な極道さんなら笑って済ますでしょうが、違った場合、全国ニュースに“被害者の斎藤恭子さん”“抗争に巻き込まれた可能性が高いと警察本部は依然捜査を続けて居ます”と流れます。
そんなん兄ちゃん、松山を恨んでも恨み切れんわ。
「あったかかったで。」
「触らせたんかっ」
「いえ…勝手に…。御嬢…そんな過激な…、皺為りますやん…。高いんですよ、此のスーツ。」
「あ?スチーム掛けたらえやないか。何なら、眉間の皺諸々あたしが伸ばしたろか?」
嗚呼そう云えば松山、眉間に傷があった筈なのですが、消えて居ます。極道はんも、顔が命っちゅう事ですか。
「見せて、触らして、ほんで何させた。」
「いえ、何も…」
「恭子、何した?」
わいは一個も加勢して居ないので、松山の観察係です。恭子に首を振る松山が面白くって仕方ありません。
「何も。」
恭子ちゃん、空気読めます。
本当は、何をしたか、何年恭子の兄ちゃん遣ってると思いますか。妹の行動位、直ぐに判ります。
恭子は気に入った物を見ると、何故か、何故か知りませんが、噛む癖があります。何故かは知りませんが…。本でも何でも、一寸、あ、此れ好きやな、と思ったら噛むのです。わいの手も、一度噛まれました。何で噛むねん、と聞いたら、え…好きやから、と。此れで知ったのです。
背中の龍は流石に噛めませんので、はい、舐めたのでしょう。
其れが判りますのでわい、にやにやにやにや、松山を眺めて遣りました。
「へぇんたぁい、松山ぁ。」
「八雲、はん…?」
「うんうん。」
存分に松山からかい、極道からかうのも命知らずな話ですが、恭子には厳重に注意して於きました。
精根尽き果て、三日後迎え来ます、と力無く答えた松山に、恭子が飛び付きました。
「恭子嬢…、今そんな元気無いんで……す………」
小さなプリンセスからのキス。恭子が持つ携帯電話の画面には、大好きなプリンセスからキスを受ける恭子の姿がありました。
ずるずると玄関のドアーにへたり込む松山に恭子は笑い、えへへ、とわいの後ろに隠れました。
如何遣ら、初チッスの様です。
恭子が好きなプリンセスが出る話、恭子が好きな理由、何と無く判りました。
此の松山の純粋さは、野獣も吃驚です。
「もうほんま…、十歳年行ってたら襲ってるわ…」
撤回、己は救い様の無い野獣や。
「なんて…?」
「いや、何も…。ほんなら、三日後…」
極道て、ほんま人間臭いな、と思う数日間でした。此れ程人間らしい人間も居ないのでは無いでしょうか。上辺だけで過ごすわいは、そう思うのです。敵には絶対回したくないですが。
恭子が買って来た土産。ふわふわしたモンスターでした。ぎょろ目付きで。此れに出て来る女の子は、恭子に一寸似て居ます。
野獣と云いモンスターと云い松山と云い、若しかして、人間以外にしか興味無いんかな、恭子。
あれでも松山、人間ですよ?誰よりも人の心を持った、ね。
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