此れも仕事


「ふぉ…、しんどい…」
帰宅したのは十一時を回ってからだった。何処からそんなに疲労が湧き出るんだと聞きたい程私の身体は重く、疲労の沼に浸かって居た。ソファに倒れる私の身体を、茜がクスクス笑い乍ら揉む。
「お疲れさん、八雲さん。」
「ほんま疲れた、もう嫌、もーう二度せん。次頼まれたら考古学者辞める。」
「あらあら、随分やねぇ。」
茜の甘い香りと息が顔に掛かり、疲労で重たい身体に茜の上体の重さが加わった。
さらさらと頬を手の甲で撫でられ、視線を軽く合わすと白虎を呼んだ。軽い身のこなしでソファに乗り、うるうると疲労もストレスも吹き飛ぶ喉音を聞かせて呉れた。
「あっち行け。」
「なんや、其れ。」
「御前居てたら、白虎のスペース無いもん。」
「ええやぁん、寄せてぇ。」
「あかん。」
「しぶちん。」
「後でな、後。」
「よし、ベッド行ってる!」
だから、益々疲れさせる事を云わないで貰いたい。
ソファで五分程白虎と遊び、風呂場に向かうと付いて来たので、白虎風呂入れて良い?と聞いた。許可を貰ったので二人で湯船に浸かった。余り信じて貰えないが白虎、猫なのに水が平気で、湯船に浸けても嫌がらない。寧ろ、おおむっちゃ気持ちィ、と喉を鳴らす。湯船に浸かり乍ら白虎の肉球をマッサージし、白虎が寝そうになったので風呂から出た。唯、ドライヤーは大嫌いで、マットの上で水を振るい飛ばすとびちゃびちゃ床を濡らし乍らリビングで毛繕いを始めた。
私は適当に髪を乾かし、何、寝癖付こうが私の髪型等気にする輩等居ない、火の点かない煙草を咥え、寝室に行った。
「あら?」
「何。」
「後でぇ、やなかったんかい。」
茜のでは無く、自分のベッドに入った入った私に茜は聞くが、本気で約束を守るとでも思ったのだろうか。
「…御休み。」
「こらぁ!」
「嗚呼、せや。」
「何よ!」
「御土産あったわ。」
「え?何々?」
「明日。御休み。」
何か未だ喚いている様だったが、其れが有眠剤となり、私は何時しか寝て居た。
其の日の夢、ティラノサウルスと化した茜に追い掛けられ、貪り尽くされるという後味の悪い物だった。
其の一週間後、あの小学校から手紙が来た。百人以上の手紙等読むの面倒で、私は読まなかったが老師は確かに読んで居た。そして一枚を私に渡した。
八雲先生へ。
そうあった。
生徒の名前は、桐山美里……みぃちゃんだった。私より綺麗な字で、なんだあの母親、外遊び禁止と言う割には書道はさせて居るのか、そう思う程綺麗な字だった。

八雲先生へ。
この間は私のわがままで困らせてごめんなさい。それなのに気にかけてくれてうれしかったです。
家に帰って犬に見せたら持って行かれました。返して、って言ったんだけど返してくれなくて、ねてる時取り返しました。
パラたんに名前を付けました。八雲です。母に、八雲たんだよ、と言ったら、小泉八雲?と言われました。なので今のパラたんの正式名称は小泉八雲です。

覚えても居ない恐竜に、勝手に人の名前を付けるとは怪しからん。然し母親も鋭い、私の名前は、長男が出雲、其れに繋がる言葉で“八雲”と付いた。まさに、小泉八雲氏と同じ理由で私の名前は付いたのだ。次男の津雲がどんな理由で付いたかは知らんが、“九十九の神”から来てるのだけは聞いた。八雲、と付けたのは父で、津雲、と付けたのは母である。出雲は父、詰まりはそういう事だ。何としても出雲に繋がる言葉にしたい…其処で母が「出雲…八百万の神…?」と口に出したので、父が小泉八雲氏の名前を思い出し、見事私に付いたのだ。
文の下には、パラなんとかフロロー?あれ、違うか、の愛らしいイラストと、あの四人組が発掘した模型を手に映るプリクラが貼ってあった。
其のプリクラには一言、八雲先生頑張れ!と書いてある。
あかん、涙腺が崩壊しそうや…。
手紙を握り、然し視線は手紙に向かない私の後ろから、分厚い手紙の束を持つ夏彦氏がにたりと笑った。
「ええもんやろ、教師て。」
「…はい。」
夏彦氏が教免に拘った理由、今の私には良く判る気がした。




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