此れも仕事


見学に興味無い生徒でも、発掘体験は面白かったらしく、皆楽しんで居た。唯、あの美少女だけは、三つのキットには全く触れず、説明書だけを読んで居た。見回り、所々教えて居た私は、其の美少女の席で足を止めた。
「せんの。」
説明書から目を上げた美少女は、うん、とだけ云い、説明書に又向いた。
「何で。」
「汚れるから。」
何を此のガキ偉そうな。
だったら好きにすれば良いと顔を逸らしたが、何かが引っ掛かった。全く興味無い、というより、本当はしたくて堪らんのでは無いか、そう思い始めた。と云うのも、美少女の視線が、横の席の生徒の掘り出された模型に向いてるのだ。
「其れ何?」
「んとねぇ、んー。夏彦先生ー。」
呼ばれた夏彦氏は、発掘された模型の説明を軽くし、なんだ夏彦氏、恐竜の全てが頭にでも入って居るのか、聞いている私はチンプンカンプンだった。
「白亜紀後期の海洋生物、エラスモスサウルス、だって。」
横の生徒は其れだけ美少女に云い、又熱心にキットに向く。有難う、という美少女の言葉は届いて居ない。
美少女の前の席の生徒が少々手こずって居たので其れを手伝い、すると「おお」と一際高い歓声が目立った。
「先生ぇ!先生、レックス!レックス出た!」
「やっと出たか、我が友人!」
何時から夏彦氏がT−レックスと交遊関係結んだかは知らないが、しなくても良い見回りをして居たのは、成る程此の為だったのかと生徒から顔を上げた。
あれ…。
視界に映った美少女の顔は、羨望に歪んで居る様で、レックスレックスと騒ぐ方を見て居た。
「…手伝うたろか?」
美少女に、聞いた。けれど彼女は頑なに首を振り、嘘が苦手なのか素直なのか、視線は嫌という程、横のエラスモスサウルスやティラノサウルスに向く。
「洗えばええやん。」
「ううん、良いの。」
彼女はまるで、本能を無理矢理制御された野生動物に映った。
「何で?ほんまはしたいんやろ?」
「したい。けど…」
「けど?」
「…何でも無い。」
其れだけ云うと彼女は箱を眺めた。
二つ後ろの席、あの美少女の取り巻きの一人に袖を引かれた。此れは何というか、美代子系統の、はっきりとした顔付きで美醜関係無く内側の明るさが顔に出て居る生徒だった。
「みぃちゃん、しないでしょう。」
「みぃちゃん?」
生徒は指差し、美少女の名前が判明した。
「みぃちゃんと私、幼稚園からずっと一緒なのね。」
そんな話、赤の他人の私が聞いても、嗚呼そうですか、としか思い様が無い。然しなんだって最近の小学生は、井戸端会議のおばさんみたいな口調なのだろう。
「汚れるって、公園で遊んだ事無いんだよ。」
「嗚呼、そういう事か。」
「でもみぃちゃんは、おばさんが思ってる程大人しい子じゃないんだ。一回、公園で遊んでたら、でもみぃちゃんすっごく楽しそうだったんだけど、おばさんが凄い怖い顔で怒ったの。服が汚れるって。」
だからなんなんだ。みぃちゃんの母親が公園遊びを禁止して居ようが私には全く関係無い。精々母親の望む侭自分殺し大人しいお嬢さんで居れば良い。
「で、私お兄ちゃんが居るのね。」
「ふぅん。」
「お兄ちゃん、すっごい恐竜が好きなのね、夏彦先生みたく。みぃちゃん、お兄ちゃんと恐竜の話してる時が、一番楽しそうなんだよ。」
「へぇ。」
「だからね。」
生徒は、発掘し終えた組み立て前の模型を私の手に乗せた。
「此れ、みぃちゃんに渡して。凄く綺麗に砂取ったから大丈夫だよ。」
此のキットは、発掘を楽しむだけでは無く、組み立ても自分でする、まさに夢と浪漫が凝縮された素晴らしいキットなのだ。
「みぃちゃん、絶対喜ぶよ。此れ、みぃちゃんが一番好きなパラサウロロフス。」
「パラ……なんて?」
「パラサウロロフス。お願いね。」
云って生徒は二つ目の発掘作業に戻った。
持って歩く訳にもいかず、又其の“みぃちゃん”とやらの美少女の席に戻り、無言でテーブルの上にパラなんちゃらサウルス?の模型を撒いた。“みぃちゃん”は最初何此れとは云ったもの、特徴的な額から後ろに向かってしなやかなカーブを描き伸びる骨に、両手をテーブルに付いて、ティラノサウルスが捕食する様に食い付いた。
「……パラたん!」
「正解。」
「パラサウロロフス、白亜紀後期の鳥脚類。体長約12メートル、体重約4トン、なんと云っても特徴的なのは、頭頂から後方へしなやかに伸びる鶏冠。鳴き声は、トロンボーンに似る。愛らしい顔付きで鈍間、何時もレックスに食われてる。」
横から夏彦氏が現れ、一通り陰湿に説明すると去って行った。
「御前、変な恐竜が好きなんやな。」
「可愛いんだよ、パラたん!」
でも、とみぃちゃんは私を見た。
「誰から?」
「あの、彼奴。」
名前を聞いて居なかったので席を顎でしゃくり、振り向かれた生徒は手を振る。みぃちゃんも有りっ丈の笑顔で手を振り返した。
「此れで、出来るな?」
「うん。有難う!」
彼女はキットの中から接着剤を出し、そして其の箱をあの生徒に渡してと頼んだ。
全く、わいは宅配屋さんちゃうねん。
呆れつつ彼女を見、パチン、薄いゴム手袋をはめた彼女に一層呆れた。




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