修羅の断頭 仏の登壇


馨の目が静かに笑い、長い睫毛は臥せた。額に手を置き、俯く。外された眼鏡、遮る物の無い目は、容易く涙を机に落とした。
「木島さん…」
軍神。
馨が、死後和臣に与えた付だった。
葬儀には出なかった。海の上に居た為出られなかった。最後に見たのは何時だったか、随分前な気もするが、昨日な気もする。
馨は顔を上げ、一度大きく息を吐いた。
和臣が守った此の国、負ける訳にはいかない。そんな目を向けた。
「新しい元帥は。嗚呼、貴方ですね。」
前に立つ狼に、馨は笑った。椅子から立ち、其の前に膝を突いた。
「帝國陸軍、本郷龍太郎元帥。帝國海軍元帥、加納馨と申します。」
「以後、御見知り於きを。」
和臣から受け渡された帽子を触り、敬礼した。
狐と狼。
修羅と為るか仏と為るか。馨は笑った。




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