処女遊戯


ドアーの閉まる音に雅は強張り、本当に二人きりになった事を知る。
「あの…井上大佐…」
普段なら低い其の声が、妙に高く、あの時と同じ声に為ったのが判った。
視界に映る背中。其れがゆっくりと前を向き、帰ります、そう云おうとした時には、唇を塞がれていた。
「のこのこ来んなよ、御前阿呆か?」
「済みません…」
近い拓也の顔に、雅は腕をつっぱたが、腰を掴まれているので逃げは出来なかった。
「男で居たい?」
「……。」
幾ら軍服を着ていても、男になっていても、一度女として関わった雅を、如何して男と見れるか。
「此れは忠告。男として見て貰いたいなら、二度とそんな目で俺を見るなよ。」
女の色をはっきり映した目に、男を感じさせろという方が可笑しい。
「頼むよ、雅、雅様。雅様で、ずっと居ろよ…。俺の所為でそう為ったんなら…」
望んでいた事が現実に起きた快感。女に戻る術が、漸く判った。
拓也の唇は相変わらず温かで、心の温度に思えた。
「私が、望んだ事だ…、ずっと。」
世界が創造される時は、落城の時みたくがらがらと音が鳴るのだと二人は知った。
「雅様は、そう簡単に崩れはせん…」
「御前、馬鹿だろ…、自分の立場…」
「軍服着れば、雅様だ…」
拓也の手から、真っ白い軍服が滑り落ちた。




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