オラニエの王国・和蘭


何度吐いた事か判らない。食べても食べても吐き、航海中で一気に痩せた気がする。此れだから、船は嫌いだ。潮風は臭い、揺れは酷い、何てぼろい船何だろう。おまけに砲撃音は酷い。眠れという方が間違っている。
そうぶつぶつと文句を云い、窶れ顔の龍太郎にハロルドは絶句した。
「長旅…御疲れ様でした…」
其の言葉に、糸が切れた。
「嗚呼全くだ、俺は船が嫌いなんだ、海が嫌いなんだ、何故ベイリー元帥が日本に来て下さらない、俺を殺したいんですか、そうですか、俺が嫌いですかッ」
捲し立てる龍太郎に狼狽し、宥めるが聞く耳は持って貰えない。紅茶を出したが、珈琲が良いとカップごと投げ捨てられた。必死に宥める拓也に龍太郎は反抗し、まるで子供に見える。其れ程英吉利への航海は、龍太郎に疲労を植え付けた。
「二度と英吉利になんか来るかッ」
そう吐き捨て、長椅子に倒れ込んだ。蒼白する顔にタオルを当て、早く来る事を願った。
和蘭陸軍元帥、マウリッツ・ファン・オールドを。




*prev|1/3|next#
T-ss