日本、英吉利、和蘭其れから…


英吉利と手を組んで、陸軍に大した利益は無い。英吉利と手を組みたがったのは海軍他為らず、大して気にも止めて居なかったが、英吉利、和蘭から正式にあった通達に龍太郎は呆れた。
海軍が英吉利と手を組みたがった理由は、亜米利加の注意をヨーロッパ側、英吉利に向ける為。
ヨーロッパ側の戦争は、先ずに仏蘭西と独逸から始まった。
国境を跨ぐ鉱山で落盤事故が起こり、双方の意見が激突したのが発端だった。仏蘭西は独逸側に鉱物を採れなく為った事に賠償求め、独逸は仏蘭西側に従業員が死亡した事に賠償を求め、両国は告訴した。互いに一歩も譲らず、他国を率いての国際裁判にするかと云う所で、悪いのは仏蘭西だと、独逸が墺太利を援護に宣戦布告した。仏蘭西は其れに応じ、一年程小さな戦争をして居た。其の時仏蘭西を援護して居たのが英吉利だった。仏蘭西が降伏すると、勢い余った独逸は、英吉利に目を向けた。仏蘭西と同盟を組んで居た訳では無い英吉利側は、意味不明な宣戦布告をあしらう程優しい国では無かった。発端の仏蘭西を両国は視界に入れず、戦争を始めた。
同じ時に日本が、中国制圧を目論んで居た。隣国中国に戦争を吹っ掛け、其の中国の援護がソ連だった。
西と東で戦争が同時期に始まり、仏蘭西と独逸の小さな戦争から約五年後、英吉利と独逸の、日本と中国の開戦から約四年後、遂に亜米利加が動き始めたのだ。
ソ連の援護に回る。
当時、日本を良く思って居なかった亜米利加はそう云い、大戦は勃発した。
ソ連は先にも云った通り、中国の援護。援護の援護、とは又何とも面白い話だが、亜米利加には中国の援護を堂々出来る資金が無かった。中国の援護はソ連がして居る、亜米利加は一寸手を貸すだけで済む、上手く行けば日本が潰れ、莫大な資金を手にし、軍事力をあの英吉利にはっきり示す事が出来る。
亜米利加側の野望は其処にあった。
亜米利加の参戦で一番困ったのは云う迄も無く日本、亜米利加の軍事力を知る馨は敗北を脳裏に浮かばせ、其れでも何とか頑張って居たが、亜米利加参戦により力を付けた中国側の陸軍が、立場を逆転させた。益々敗北の色が濃く為り、亜米利加の注意を何とか他に向けれないかと頭をフル回転させた。海軍迄日本に来られたら、日本が沈むのは確定だった。
そして導き出されたのが、世界最強海軍を有する英吉利との同盟だった。
其れが、今から約二年前である。
馨の思惑通り、亜米利加側の海軍は英吉利に向き、何とか敗北は免れた。
其れから二年、英吉利と独逸、日本と中国の戦争は互角だった。
英吉利側の誤算は一つ、独逸との開戦から約五年後、詰まり今から一年前、勢いに乗った独逸が和蘭を制圧したのだ。此れに依って和蘭が中立を破棄し、英吉利、日本の同盟国に為った。
丁度和臣が死んだ時期で、中国と六年目の戦争をして居る時だった。
其れから一年もしない内、英吉利日本のみ為らず、亜米利加迄も不可解にさせる“今”の参戦があった。
七年の沈黙を経て、真っ先に潰された、仏蘭西の参戦である。
七年前独逸に敗れた時、幾つかの公約をした。
新しい兵器は作らない、独逸の配下に為る、大人しくして於く、賠償金を払う、独逸人をナンパしない……然し、軍事力強化の公約は、一切無かった。七年、独逸の配下に大人しく黙って居た仏蘭西側は、母国を奪還するべく独逸に宣戦布告した。
英吉利と云う、巨大な援護を付けて。
亜米利加の注意を日本から此方に向けなければいけない、和蘭は援護しなければ為らない、独逸と戦わなければいけない、唯でさえ苦労強いられる英吉利は、仏蘭西と云う荷物を又一つ持つ羽目に為った。
「本郷さん…」
「はい…」
「私、英吉利諸共、潰れるかも知れません…」
「心中御察しします…」
「其の時は、皆で亜米利加人に為りましょう…。マウリッツも其の覚悟です。何、大丈夫です…、ビッグ・ベンより、マウントフジより高いプライドが崩壊するだけです…」
電話越しのハロルドは、心底疲れ切った声を漏らすと、静かに電話を切った。




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