男装の麗人


元帥として君臨して居た父は数年前他界した。
敵国からの砲撃に依り、軍艦脆とも海に沈んだ―――。
等と軍人らしい死に様では無く、病に苛まれあっさり逝った。運命とは面白い物で、其の時期丁度、と或る野心家も他界した。木島宗一郎、時の内閣総理大臣だ。
父の死後、兄が元帥として其の地位に座った。
時代が変わった。
私は其の時誓った。

国の人形に為ろうと。

娘を望まなかった父にとって、私は邪魔な存在だった。女は軍人や兵隊には為れないからだ。
だから私は努めた。
男で居る事を。
男の心を持ち、男として生きて来た。兄の言葉を聞く迄は。
「もう男で居る必要はありません。」
其の言葉は私を抉り、今迄築き上げた人生を全て否定された気がした。兄にそんなつもりは無くとも。
「私が、邪魔ですか。」
では何の為に軍人に為ったのだ。父の為、全ては此の国の為だと云うのに。
「そうではありませんよ。」
白い修羅は笑う。
「頭も切れ、軍人として、本当に素晴らしい。」
「なら何故、女に戻れと。」
「だからですよ。男として、軍人として生き、倖せですか?」
深く刺さる言葉。私の倖せ。其れは唯一つ。
「此の身を国に捧げる事が、私の倖せ。父上の、兄上の、そして此の国の力に為る事こそが、私の倖せです。」
揺るがぬ思い。今更如何して女として生きれ様か。
男として生きる為に選んだ道。
自らの手で生殖機能を潰した私に、兄の云う女の幸福があるだろうか。答えは否。
「私は男です。今迄も、そして此れからも。」
此の国で、女の地位が何処にあろう。家畜同然の扱いで男の手に依って生かされる女。其れの何処が幸福だ。其れが幸福と云うのなら、私は不幸で構わない。
男として生きる。
女である事は、遠の昔に海に捨てた。
其れが、私の生き様。そして、死に様。




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