子供の行為、大人の遊び


時恵が京都に来、侑徒に日課が増えた。時恵を診るのは勿論だが、とても重要な事だった。
最後に、自分の出来る事をすると、時恵の目は揺れた。
此れ以上進行させたくない宗一は止めてくれと頼んだが、言い出したら最後、聞かないのが時恵だ。最後に時恵が見せた、生への執着。木島宗一郎から始まった狂気といわれた木島家の事を、全て書く。誰も為でも無い、自分と、そして自分に関わった全ての人間の為に。
侑徒は其の為の原稿用紙を買いに走らされている。
何せ、必要以外にはペンを持った事の無い時恵だ。失敗しては書き直し、気に入らない、此れは真実ではないと、原稿用紙を破る。御蔭で原稿用紙とインキの減りが早いのだ。
絶対条件として、必ず夜の八時にはペンを置く事と宗一に云われている。破った場合、一切認めないと。
此れで少しでも長く生きられるのなら、と宗一は侑徒を走らせる。
自分が長くないのは判っている、判っているからこそ、身体に鞭打つ。
今の時恵は、学生の頃の自分だと侑徒は感じた。けれど、違う。時恵は自分の為にしている。
今でこそ平和だが、三十年前の木島家は狂っていた。其れは誰の目に見ても確かだった。
何故時恵がそんな事を始めたか。甥の情死を聞かされたからだ。甥の死は、此の木島家の狂いを又明確にさせた。
木島宗一郎から始まる歪み。正妻と、妾が二人。時恵には、何処から書いて良いのかさえ判らなかった。
木島の血は、何処で止まるだろうか。そして、一番最後に残るのは、此の憎悪の果てを見届けるのは一体誰なのだろう。
一幸、折、恵御。
此の内のどれかが子供を生む。若しくは全員。出来る事なら、此の世代で終わって欲しい。
「三代続けば、充分ですわ…」
走らせるペンに、願いを託した。




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