軍国トリップ


今朝から様子のおかしい宗一の事ばかり考えているハンスは、月も出ていない誰も居ない庭で一人煙草を蒸かしていた。昔を思い出し、年は取りたくないと自嘲した。人の気配がし、振り向くと酒瓶を持った時一が其処には居た。時間も時間で、ハンスも驚いたが、時一も其処にハンスが居る事に目を大きく見開いた。
「なーにしてるの、こんな所で。寂しいじゃないか。」
「其れを云うならトキイツもだろう。」
姉を放って良いのかとハンスは笑い、横に座った時一は笑って瓶を口に置いた。星が綺麗に光っている。
「ねえハンス。」
「ん?」
「宗一の様子、おかしいと思わないか?」
空から目を外し、横目で酒を飲む時一に、ハンスは顔を逸らした。
「さあ、俺は判らないけど。」
「ふーん?」
にたりと笑い、瓶を持った方の腕をハンスの肩に回した。
「吐いちまいなよ、アスクさん。楽になるぜ。」
「絡むなよ…」
ハンスは呆れ、顔を突き放した。
時一、決して酔っている訳では無い。此の気持の侭では塞ぎ込んでしまうと、時一は誰かと話をしたかった。けれど侑徒とは話したく無い。
はっきりと判る。時一は侑徒が嫌いであった。時一は昔から、はっきりと物を云い、又はっきりと物を云う人間しか相手にしない。其の性格の為、曖昧な侑徒が正直好きになれずいる。
最初は宗一と話そうと思ったが、ベルを押しても反応が無い。ハンスが居る筈なのにと庭に回った所、其処にハンスが居た。
時一が自分の家に来たのは、特別自分に会いに来た訳では無いのかとハンスは項垂れ、暖かい手を時一の頭に乗せた。笑った時、一瞬だがハンスの姿が霞み、時一は強く瞬きをした。酒の所為であろうと大して気に止め無かったのだが、時一の身体には確かに異変が住み始めていた。




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