ヨーゼフという名前


大学を卒業し、医師免許を貰ったと報告に行った時一は、待って居たと云わんばかりの総統閣下の顔を見た。椅子を回転させ遊んで居た総統閣下は、止めると時一を手招き、シニカルに笑う。幼さを残す時一の顔は上目に総統閣下を見た侭引いた。
其のくりくりとした猫の様な目。
「君には、アルツト スガハラ。新しい名前をあげ様。」
青い目に時一の黒い目は重なり、揺れた。
「新しい、名前?」
首を傾げ、少し嬉しそうに笑う時一に総統閣下も、我が子に何かを与えた父親の様に笑う。左側を隠す前髪に触れ、自分を映さない義眼をじっと見た。
「ヨーゼフだ。」
「え?」
義眼を見た侭総統閣下は云い、其れが何か判らず疑問の声を漏らしたが、直ぐに其れが新しい名前と知る。
「ヨーゼフ…?」
「ヨーゼフ…、ゲーテ…。ヨーゼフ・ゲーテ。うん、ピッタリだ。」
ゲーテは詩人の彼奴からだ、と続けたが、ヨーゼフが何処から来たのかは聞かされ無かった。
兎に角君は今日からヨーゼフ・ゲーテ、独逸人だ、おめでとう、と時一を見ず云った。




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