Herrschaft-支配


此の左目は支配だ、そして此の右目も。支配に塗れた此の顔。
取り出した義眼を見詰め、不可解な色を見た。
赤、血が滲んでいた。
「あれ…」
今朝慌てていた為、爪で傷でも付けてしまったのだろうかと鏡を見た。
違った。
血が出たのは左側では無く、右目からだった。見詰めていた時一滴落ち、其れを傷と勘違いした。
青い目が真赤に、血の涙を流して居た。
「時一、さん…?」
派手な物音が聞こえ、見えたのは床に座り込み恐怖に震える妻の顔だった。
「何故、血が出てるの…?」
「薬品の所為だろうな…」
暢気に答えた。
何時かこうなる事は想像していた。僕が造り上げた偽りの支配は、僕を正しく支配した。
少し早過ぎた。もう少し偽りの支配に支配されている筈だった。
「宗一を呼んで。」
脳裏に焼き付けたかったのは妻でも娘の顔でも無く、愛人の顔でも此の国の支配者でも無く、宗一の顔だった。
僕を唯一、無意識に支配する絶対者。
「呼んで下さい、珠子さん…。御願いします…………」
真赤な涙を流した。妻の涙は、其れはもう奇麗な透明で、自分の汚さを再確認した。




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