Diktatur-独裁
呼ばれた宗一とルートヴィヒは互いに無言で、部屋迄の暗い廊下の雰囲気を辛気臭くさせた。総統閣下が居るのだから、もっと活気があっても良いだろうと宗一は思うが、自分がし様とは微塵も思わない。勿論、ルートヴィヒもだ。ドアーの前に立つハンスに敬礼し、ルートヴィヒは額を叩かれた。
「寝るなよ。」
「え?起きてるよ?御前こそ寝てるの?」
「今じゃなくて…」
まあ良いとドアーは開き、クラウスと入れ替わった。擦れ違い様宗一は睨まれ、何故睨まれるのか判らない宗一はハンスを見た。
「睨むなよ…」
「其れを大将閣下に云って。」
「後でな。」
押し込まれる様に二人は部屋に入り、やる気無く右腕を突き出した。二人のやる気無さに文句も無く、抑そんな気さえ起きず、早く腕を下ろす様に無言で手首を上げ下げした。
二人の敬礼がやる気無く見えるのには理由がある。
ルートヴィヒが云った、此の敬礼って凄くださいよね、と云う言葉の所為で宗一は、此の敬礼を活気良くする意味を無くしてしまった。最近のルートヴィヒ、モルモットと遊び過ぎてか独逸自体をださいと貶し始めて居る。此れが側近の言葉か疑わしいが、ルートヴィヒは元々墺太利出身なので納得は出来た。
最近独逸と墺太利は合併した。其れがルートヴィヒには気に食わない事なのだ。
総統閣下の横に立つ時一の顔に包帯が無い事に気付いた宗一は床に落ちる包帯を取り上げ、巻き直そうと触れたが拒否をされた。
宗一の手から包帯を巻き取り乍ら総統閣下は云った。
「ソウイツなら出来無いか?」
「何をです?」
此の目を、左と同じにする事は。
包帯を巻いて居るのは痛々しいが、取った姿を直視する事、正直総統閣下には出来無かった。情けない気持と申し訳無さで何とか見れる様出来無いかと懇願する総統閣下の姿に宗一は息を吐いた。
「其れは命令ですか?」
ショコラーデを口に運んで居たルートヴィヒの手が止まり、じっと宗一を見た。
泣き腫れる目尻を見た侭宗一は同じ事を繰り返し、言葉を待った。
「命令なら、聞いてくれるのか?」
「御命令とならば。」
「そうか…。…………ショコラーデ食べるの、止めてくれないか?ルートヴィヒ。」
真剣に話して居る目の前で、暢気に鼠みたくショコラーデを漁るルートヴィヒに腹が立ち、其れに時一が笑う。あははは、と本当に楽しそうな笑い声なのだが、全く動かない目に宗一は自分を納得させる様に頷いた。
「其の御命令、遂行させて頂く所存です。」
「ソウイツの独逸語は、本当に奇麗だな。ショコラーデ食べてる誰かと違って。」
宗一の言葉と時一の目が奇麗になる事に安堵の息を漏らし、ルートヴィヒが口に運んで居たショコラーデを取り上げ食べた。
「うん、美味い。」
嗚呼、と情けない声を出し、最後の一つだっただろうと鼻で笑われた。しかし白衣のポケットに手を突っ込み、アリアを歌う。出た手にはしっかりとショコラーデの箱が握り締められており、此れ見よがしに蓋を開けた。
「御前の白衣は、如何なってるんだ?」
「白衣…?ショコラーデ収納妻と云って欲しいね。」
白衣何て色気の無いと、一つ食べた。
「ルートヴィヒの白衣からポケットを無くせ。」
指に溶け付いたショコラーデを舐め、何故自分の指は汚れたのにルートヴィヒの指は汚れ無いのか気になった。何か秘密があるのではと指先を凝視したが、至って普通に摘まんで口に運んで居た。単にルートヴィヒの体温が低く、総統閣下の体温が高いと云うだけで秘密等全く無いのだが。
指先を、ショコラーデを凝視されて居る事に気付いたルートヴィヒは静かに蓋を締め、無くされる前にポケットに仕舞った。
「あげないよ。」
「ショコラーデ禁止令を出してやろうか。」
「そんな横暴な、独裁者。此の飲んだくれ。」
「嗚呼?何?」
「何も。」
ポケットに伸びた総統閣下の手を掴み、愛しい愛しいショコラーデを悪魔から死守した。私から彼女を奪うな此の悪魔、と罵り、ユダヤ人と同じにショコラーデも世界から消すべきリストに入れる、と二人は幼稚な喧嘩を始めた。
「大体御前、俺に甘い物を一切禁止にして於いて、何で目の前で食べる?此の悪魔。」
「其れは自分が悪いんでしょう。ハンス、ハンス助けてっ。アロイスがっ」
二人のやり取りを時一は笑い声を立て聞いて居た。
因みに此の二人、四十年前から同じ事で喧嘩をして居る。全く成長が無い、ショコラーデ一つで此処迄幼稚になれる此の国は、平気に違いない。屹度勝てる、いや絶対に勝てる。
時一は何故か確信した。そうして楽しそうな笑い声は薄くなり、喉で反響した。
そんな、明らかに会話に笑って居ない時一を宗一は横目で見た。左右の目を義眼にする事で、一層濃くなる忠誠心に不安を抱いたのである。
時一は勿論、愛しい時一を取り戻せるならと総統閣下の命令に従う自分に対して。
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