Gehirnwsche unterziehend-洗脳


階段の所にちょこんと座り、部屋を見て居たヴォルフは、出て来たルートヴィヒの姿に身体を起こした。入って良いだろうかと尾を振り乍ら近付き、然し、見たルートヴィヒの顔に身体が凍り付いた。
くつくつと笑い、此れが人間の顔なのか疑いたくなる程歪んで居る。
「アロイス、洗脳は、全てが揃って可能となるね。」
五感全てを洗脳して初めて、最強の人物が生まれる。
ゆっくりと此の一ヶ月程、侑徒には洗脳を始めて居た。
先ず視覚。
掲げるハーケンクロイツと統一された軍服、そして其れを全て自分の物にする総統閣下本人。今迄一切、軍と関係を持たなかった侑徒には強烈で、微笑み掛けた総統閣下で其れは完了した。
次に聴覚。
総統閣下万歳と連日聞き続け、其の中で聞く断末魔。侑徒の精神状態は悪かったと云え様。其処に手を伸ばしたのが、時一である。
臭覚は、思いも依らない人物がしてくれた。生臭さの中にある、花の匂い。珠子が渡した香水に侑徒は器官を麻痺させ、其処に留まる事を容易くさせた。
触覚。此れは視覚と連動し、ヴォルフが此れに当たる。懐いたからプレゼントと云われた其れは、初めから用意されて居た。偶々ヴォルフが侑徒を気に入り、ヴォルフで無ければ他でも良かった。そしてクラウスが付けた傷、其れを舐め忠誠を誓ったヴォルフの存在。
そして味覚。
白衣から取り出したショコラーデにルートヴィヒは笑った。
容易周到な膳立てに全く気付かず、最後に強烈な“神”と云う言葉で、巨大なハーケンクロイツを完成させた。
完成した最強兵器。
「神様が、二人も存在する訳無いでしょう…」
精々偽りの神様でも演じて居ろと、ヴォルフに目を向けた。
気付いて居ないとばかり思って居たヴォルフは一瞬身体を強張らせ、尾を下に伏せた。
「仲良くし様。」
――嫌だよ…
伸びた手に、又叩かれるのかとヴォルフは目を閉じ、其の姿にルートヴィヒは目を見開いた。
「叩いて悪かったね。」
冷たい手に撫でられ、ルートヴィヒを見上げた。薄く笑う顔、気味悪かったが一度助けて貰った事を思い出したヴォルフは腹の下から尾を出し、静かに揺らした。
――でも、騙されねえぞ。
警戒心を残した侭、御前では開けれないだろうと、開かれたドアーに身体を半分入れた。蹴られるかも知れないと思って居たが、侑徒に呼ばれ、何も無かった事に安堵した。
侑徒にじゃれる姿に薄く笑い、静かにドアーを閉めた。犬も人間も大差無いと、喉元と白衣を揺らした。




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