Heil-万歳
顔が優しいから黒より白が良く似合う、と笑顔で云われた。
「御前もそう思うだろう、ルートヴィヒ。」
横に立って居た彼は俺を見て数回頷き、総統閣下に向くと右腕を突き出した。
「Heil!」
俺は未だに、行き成り云われる此れに慣れて居ない。腹の底からハ、と行き成り強く云われる為、身体がびくつく。静かだと思って居ると、矢先に此れだ。拍手と共に云われるのは平気だが、静寂の中から、振り落とされる様に出て来る万歳は、怖い。
「挨拶は全て“Heil”。会った時も、別れる時も、全て“Heil”で始まり“Heil”で終わる。」
全てを突き破る様に真直ぐ力強く、指先に迄神経を集中させて右腕を突き出す。難しいとは思ったが、何度か繰り返せば勝手に身体がしてくれると彼は云う。数分其れを教えて貰ったが、総統閣下は苦笑いの侭俺を見て居た。
「指先は広げない。蛙じゃないんだから。」
開く手を彼に何度も掴まれ、泣きそうになる。声も弱いと指摘された。
「ユート、日本にも万歳はあるでしょう?」
彼は余りの出来の悪さに呆れ果て、其れをしてと云った。総統閣下もフニャフニャな手先に、奴等見たく拳かも知れんぞと笑う。云われる侭に俺は、少し頭を下げた。
「天皇陛下万歳っ。本郷元帥万歳っ」
両腕を真上に突き上げ、腕と一緒に顔を上げた。其れを二回繰り返した。
俺は、“本郷元帥万歳”の時代の人間だ。尤も、京都では“木島元帥万歳”の方が根強い。京都が今迄、軍事国家に生き乍らも俺が此の軍事国家に驚く結果になったのは、木島元帥の力がある。
「出来るじゃない。」
呆然と指先を見た侭彼は云い、何だ、こんな事だったのかと、自分の指先を見た。
身体が勝手にしてくれる。
俺は其の言葉を身を以って知った。
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