わっちゃ悪くない


新から聞かされた言葉に雄一は一旦ペンを止め、瞬きを繰り返し振り向いた。
「本気か?」
「如何なるかな…」
雄一は手を振り、自分は反対だと云った。
恋仲と結婚したい。
新はそう云ったのだ。結婚が何たるかを知る雄一は、そんな身を滅ぼす行為は陸軍だけに留めて貰いたいものだね、と付け加えた。折は詰まら無い目を向け、馬ー鹿、そう云った。其の言葉に反論、反応しない新は紙を見据えた。
「子供は…?」
結婚の良さは判らないが、子供の良さは判る。其れには賛成する雄一。しかし折は微かに怒りを見せていた。先刻から何度も煙管を振り回している。
「新が結婚したら、俺は如何なる。」
「其れは…」
折だけでは無い。此の黒猫楼は如何なる。身体を売る事しか知らない此処に居る男達は一体何処に行く。新は、恋熱に浮かされる男の前に此処の楼主何だ、余りに身勝手だと、折は立ち上がると部屋から勝手に出て行った。自分の感情で客を一人にする御前は違うのかと、連れ戻す為に新も部屋を出た。一人取り残された雄一は眼鏡を外し、どいつもこいつも糞ばかりだと目頭を摘んだ。
抑、と雄一は窓を見た。
在の二人は一緒に居過ぎる。生まれてから一度も離れ離れになった事の無い二人に、雄一は一種の奇妙さを感じている。双子だから一緒に居る、そう二人は云うが、何故居る必要があるのか、其れに、新依り折の方が執着している。異様な程。其れを何の疑問も持たず受け入れる新。
此の二人は、繋がっている。確かに繋がっているのだが、其れは心では無く、将又魂でも無く、身体。上半身は離れているのに、下半身が繋がっている様に雄一は思えてなら無いのだ。身体の離れている結合双生児にしか見えない。
だから、二人は一緒に居る。そう考えた方が疑問を持たずに済んだ。
だが、考える。
あの二人は二卵性の筈。
「二卵性双生児の、結合双生児…」
普段は余り執着しない折が、恋仲の居る新に異様な執着を見せている。まるで、新は自分の物だと云わんばかりに怒っている。
若し此れで、新が折から離れたら、如何なってしまうのか。結合した身体を無理矢理剥がした未来は、どちらかの死。
「死ぬのはどっちだろう。」
折が、新を殺しそうだ。若しくは其の相手の女。
「うん。其れも中々に悪くない。」
机に並ぶ軍事批判の原稿用紙を手で払い除け、まっさらな原稿用紙を置いた。黒いインキが用紙に滲み、続けられた言葉は“二卵性結合双生児”だった。此の小説に終わりはあるのだろうかと雄一は考えたが、終わりがある時はどちらかが死ぬ時。若しくは自分が死んだ時。出来れば、一生完結しないで貰いたい、そう雄一はペンの走る音を聞いた。




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