海軍の恐ろしさ


海軍側から渡された手紙に敬作は崩れ落ちた。不安そうな目で自分を見る清人の姿等視界に入らなかった。手紙を握り潰し、屈折した身体で何度も床を叩いた。
陸軍元帥とて、如何する事も出来ない。出来るのは多分本郷。けれど本郷の手は借りれない。敬作の友人なだけであって本郷とは全くの無関係。如何するかと無意味に家の中を歩いた。歩くだけ歩き、疲れただけで何の策も出無い。ソファに凭れ、清人に手を伸ばす。
歩いて出た考えは此れだけだった。
「なあ、清人。」
「はい。」
云うか迷うが、清人にも其の覚悟をして貰わなければならない。陸軍相手なら心配は要らない。
何故海軍が出て来た…
雄一に似た目を敬作は撫で、静かに云った。
「俺の息子になる覚悟はあるか?」
敬作の言葉に清人は眉を顰め、言葉の裏を考えた。そして行き着いた真意に清人は俯いた。
「僕、御父様、大好きです…」
「………嗚呼。」
「本も素晴らしく、尊敬も、してます…少し難しいですが…」
「うん…」
「何故でしょう…」
清人は顔を上げ、への字に曲げる口を震わせた。
「御父様が軍に殺される理由、僕には判りません…」
御前の父親は物書きの前に反国者何だ。
其の一言。
決して云え無かった。




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