海軍の恐ろしさ


「神楽坂さんの方は、ええっと…」
軍医から説明を受けた敬作は吐き気を覚えた。頭蓋骨には皹、腕、足、其れに肋骨は骨折。腕に至っては五日放置された為治るか疑わしいと云われた。其れ以上に身体の至る処に火傷。たった五日で良く此処迄出来たなと軍医は感心さえ見せた。陸軍で一ヶ月拘留された後より酷いと。此処では精々、打撲は当然だが歯を折る程度。酷くて脱臼。骨折やらは余程で無い限り無い。
「神楽坂さん、此処で相当やられてますからね。中が強靭です。吃驚しました。」
普通なら折れた肋骨が肺に刺さっているだろうに、腹の打撲痕からして破裂してもおかしく無いのに、又、頭の傷から脳の血管が破けて良い筈なのに、そう続けた。
「生き様とする執念ですね。唯、かなり衰弱してますので、治りは遅いです。後、眼球ですが。」
軍医の説明を後ろに、敬作は腫れ上がる雄一の瞼を見た。物の角で切ったのか瞼は腫れ、其処から化膿していた。抜けた歯からも化膿し、雄一は今、熱の中に生きている。足の骨は時間がそう経っていなかったので真直ぐ治る。安心はしたが、問題は腕の骨折だ。左腕だけの骨折。
肘下からの橈骨を真二つに折られ、其れだけなら未だしも中手骨全て折られている。物書きとして、致命的だった。仮に橈骨が真直ぐ付いたとして、中手骨が治らなかったら。ペンを持てる訳が無い。
馨は其れを計算していた。
敬作は息を吐き、眼球に異常が無い説明に頷いた。
一方折は、骨折や火傷等は無かったが、裂傷が酷い物だった。殴ったのは馨だけなのか、打撲は真新しい頬だけだった。唯、折の状態には軍医さえ暫く目を逸らしていた。
「僕もね…まあ、慰安婦を診る訳ですが…」
其処で言葉は止まり、両手で顔を覆うと、余りに可哀相だ、そう云った。
裂傷は化膿し爛れ、直腸は精液に溢れ、胃の中を調べたら精液と水しか入っていなかった。其れに雪子は声を殺して泣き出した。龍太郎は言葉を無くし、在の浮雲としての折を知る拓也は壁を殴り付けた。
「神楽坂さんに対してもそうだけれど……人間の、する事じゃない…っ…海軍は…鬼畜の巣窟だ…」
軍医は目に涙を溜め、机に置かれるカルテを握り締めた。
「反国者でも無く、唯見せしめの為だけに…十八歳の子に…海軍は…鬼畜だ…」
其の鬼畜達を纏める絶対的な修羅が、此の国の首相。龍太郎で無く共、此の国が終わったと理解出来た。
「此の国は…破滅する。」
木島の次は加納か、全く修羅と云う物は理解に苦しむ。
仏の言葉に誰も反論は無かった。




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