海軍の恐ろしさ
雄一が海軍に拘留され五日。そろそろ如何にかしなければ雄一は勿論、其れに続き浮雲と清人の人生が駄目になる。俺は在の時清人にああは云った物、実際の処如何する積もりなのか考えは無かった。考えて居ると後ろから声を掛けられ、息を飲んだ。
「力、貸してやろうか。」
「…え。」
珍しく髪を結んでいる井上さんの姿。本郷元帥にも話しては居ない筈なのに、そう俺は此の不適な笑みにたじろいだ。
「新の遺骨は…?」
其の掠れた声に心臓が跳ね上がる。
「其れは…」
海軍側が新の遺体処理をした。必然的に遺骨は海軍にある。
黙っていると細い指が俺の眉間を突いた。
「龍太みたく、皺寄ってるぜ。元帥殿。」
無意識に寄った眉間を指摘されたが、俺に直す術は判らなかった。暫く無言で向かい合っていると彼の後ろから足音が聞こえ、現れた狼の姿に唇を静かに噛んだ。
「何故もっと早く云わない。死んだら元も子も無いだろう。加納は神楽坂を殺す積もりだ。」
黒い軍服が、此れ程頼もしいとは、俺は知らなかった。迷惑を掛けたく無かった。其の思いが反対に迷惑を掛けた。申し訳無いと俺は頭を下げ、其の頭に本郷元帥の暖かい手が触れた。
「御前の友人で無ければ動かんがな。拓也、行くぞ。」
頭から手が離れ、離れ様井上さんの手が肩に乗った。
「仏様が味方で良かったな。」
遠ざかる黒い背中に、俺は何時迄も敬礼を続けた。
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