蝉の声


「堪らない、愛を、感じた。ねえ。」
雄一の本を其処迄読み、敬作はにやりと口元を歪めた。
「実際御前等、どんな関係よ。」
「客と男郎。其れ以上でも以下でも無い。」
「愛してるのか?」
雄一は無言で、真意を隠す様に酒を飲んだ。敬作は又注ぎ入れ、自分にも注ぐ。銚子が空になり、新しく酒を頼もうと襖に手を掛けた時、襖が勝手に開いた。黒い布が床に皺を作り流れ、真白な皺一つ無いピンと張った足袋が目に入った。
「何やってんだ、あんた。」
四つん這いで自分を見上げる敬作に浮雲は冷たく一声し、雄一を見た。
「御待たせ、公爵。」
「御ゆっくり。」
新は頭を床に付け、静かに襖を閉めた。
「しまった…」
初めて見る浮雲の姿に呆けて居た敬作は慌てて襖を開け、廊下を歩く新に「酒」と云った。
「瓶で?」
「いや、銚子で…」
「面倒臭…」
へいへいと新は手を振り、敬作はくるりと振り向いた。
上座に鎮座する蛹。此れに芋虫があるとは、敬作には信じられ無かった。其れが吐く糸に興味そそられはしたが、決して見たいとは思わない。




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