ヰロヲトコ


階段を乱暴に下りる音が聞こえ、新は顔を向けた。鬼の形相とはまさに此の事だと云わんばかりの折の顔。表情があったのかと驚く。
もう時期店を開ける時間だと云うのに何処に行くんだと声を掛ける前に、折は下駄を引っ掛け、からりからりと暖簾の外に消えた。春一番の様な折に、新は唯々瞬きを繰り返した。居ない事に気付き、もう遅い事に気付いた新は首の付け根を掻き、息を吐いた。
「浮雲兄さん、如何した。」
「如何したもこうしたも、消えた…」
「はぇ?」
公爵は来ない、否、来れない、折は何処かに行ってしまった。
「勘弁してくれよ!」
頭を掻き、そろばんを振る。其の乾いた音は、新を嗤った。




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