時一先生の一日


何時迄こんな生活を送っている積もりだ、と、帰った筈の宗一の声を真夜中に聞いた。最初は夢かと感じたが、窓の傍にある椅子に座り、逆行で紫煙を知った。横に寝ている彼に視線をやったが、彼の姿は何処にも無かった。事が終わり、俺が寝たのを確認すると勤務に戻ったに違いない。彼は真面目であるから。
「何を、してるんだ…?」
むっくりと起き上がり、肩から落ちたタオルケットの下から現れた自分の肌。隠しはしなかった。
「時一こそ、何してんねや。」
「さあ、何をしているんだろうね、俺は。」
自分でも良く判らない。
擦れたマッチの匂いは懐かしく、左目が微かに熱くなり始めた。此の目は、唯の塊であるのに、時たま凄い熱を持ち始める。火に炙した鉄の塊を埋め込まれている。
「ねぇ、宗一。」
「ん?」
「戻って来て。俺の所に。」
「嫌。」
微かに鼻で笑う音が聞こえ、裸の侭宗一に寄った。
「何で、俺を捨てたの?」
垂れた目が興味無さそうな光で俺を見ていた。
「捨てたんや無い、手放したんや。」
其れが嘘だと、俺は知っていた。
「俺が、宗一を必要としなくなったから。」
宗一は俺を捨てたんだ。其れより前に、俺が宗一を捨てていた。判っているのに、認めたくなかった。
とても静かで、互いの心臓の音が聞こえている気がした。
俺は誰かに殺されたがっている。けれど、宗一には殺されたくない。其れは確かだった。
「一緒に、死んで…」
宗一の肩に手を置き、其の侭崩れ落ちた。
「一緒に死んで、宗一。」
俺は泣いていたに違いないが、自分では良く判ら無かった。誰かに殺されたい感覚は、宗一と心中する事を指してる。
「又、今度な。今は忙しいから、暇になったらな。」
宗一はそう笑った。



絶対よ、約束よ。
今直ぐでなくても良いの。
死ぬ時は、必ず私と、死んで頂戴ね。
約束よ。
愛してるわ。




*prev|5/5|next#
T-ss