赤ゐオルファ


嫡男が居るのに、父は男子を求めた。私は女で、未だ生まれるだろうと父は高を括り、けれど母は二回流産し、結局望んだ男子は生まれ無かった。女である私は父に疎まれ嫌われ、そして存在を“無”にされた。父は私の此を周りには決して話そうとはしない。「子供がな」と話すが兄しか指していない。「馨がな」と云えば他にも考え様はあるが、私の名前は父の口から周りに伝えられる事は無かった。
横に連れる等、ある筈が無い。父の横に居るのは兄で、“子供”だけだった。
けれど私は父を嫌う事が出来ず、如何して“無”を変えられるか思考した。そして着いた。
男装の麗人。
何も始めから其の名を持っていた訳では無い。時間と共に手に入れた、私を私と示す、絶対な言葉だった。
しかし此の“男装”と云う取って付けた様な、絶対な言葉であるが嫌いだった。
私は男装では無い。
“男”として生きると決め、努めている。
私は、男なのだ。男の姿を真似た訳では無い。無理矢理女を封じ込め、兄の様になる筈だった。
そう、なる筈だった。
此の子宮さえ無ければ。




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