浪漫スタヰルの発祥


昔から俺は、姉の着せ替え人形だった。特に嫌と云う訳でも無く、姉は飽きた着物を俺に着せては遊んで居た。姉は昔から人形遊びが大好きで、余りに人形が好きで、其の首をもいだ事もある。父が姉に与えた異国の人形は、大半は一年もしない内に、小説に登場する猟奇サイコパスの餌食となり惨殺死体と化した。
此れはいかんと父は思い、決定的に俺が人形の代わりになる事を云った。
「時恵は在れだろう。人形が小さ過ぎるから、手に余るんだろう。」
「そう何ですのよ。服を脱がせ様としたら、勝手に首が。」
勝手に首等もげ無い。過度な力を左右に加えない限り、人体の構造上、首が引き契れる事等無い。
姉は不思議な癖があり、人形の身体に興味は無く、あるのは専ら、其の愛らしい顔だった。故に契れた人形の顔だけを箱に収穫し、机に並べては笑って居た。
兄は、人形が嫌いだ。人形みたく自分の云いなりになる女は大好きなのだが、人形其の物には恐怖を抱いて居た。其れも其の筈で、一度、猟奇殺人鬼の生首コレクションが兄の頭目掛け落ちたのだ。鈍色や藍色、多種多様たる硝子玉が一心に兄を恨みがましく見詰め、兄は恐怖で発狂した。そんな兄を、猟奇殺人鬼基姉はにやにやと笑って眺め、又箱に収穫した。
「時恵はなあ、気に入った物には、加減を知らんからなあ…」
「頑丈であれば、壊れませんわ。脆いからいけませんのよ。」
「頑丈、なあ。時恵の手より大きな人形等、人間位しか、無いな。」
「買って下さいな。」
「人間は買えないよ。人形を買うより遥かに安いが、飽きたら如何するんだ。俺は人形遊びは趣味じゃない。そうだな、時一で我慢しろ。時一なら、飽きた後世話してやるぞ。父親だからな。」
そんな父の意味不明な言葉に依って俺は姉の着せ替え人形になった。可愛いわねえ、等と手を叩き笑う姉に俺は、俺は弟と云う立場上何も云えず居た。可愛い可愛いと姉と周りに持て囃され、其れが何時しか当たり前となり、快楽になった。
俺は可愛い。
俺は至高なる人形。
俺は、神が作りし傑作品。
そんな思いが、裏腹に俺を苦しめたのは、俺自身でさえ気付いて居なかった。




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