アンティークな時間
大金は果たして消えた。
我が家の家具は、此処に来て知ったが、殆どが英吉利家具だった。見た事ある作りだな、と店にある家具を見た時思った。
何だ父上、汚い掛け軸を保管して居ただけでは無かった。
然し私、此の天蓋のベッドたる物が非常に気に入って仕舞った。其の運送費で消えたと云っても良い。
在の海軍元帥には、紅茶を買って遣った。「飲まずに家宝にします」と云われたが、在の掛け軸みたく為るのだけは勘弁、目の前で煎れさせた。
雪子さんには可愛いアンティークのブローチをあげた。西洋骨董のアクセサリーとは、留め具が大きい。日本のアクセサリーみたくあんな、拡大鏡、或いは他人の手を煩わせる細かさでは無い。此れなら洋服元より、帯にも映えるだろうと考えた。
井上氏には主人とベイリー元帥が土産を渡した。勿論、酒である。私も何か、貴族紳士を真似して洒落た物でも送りたかったが、殿方に贈り物等した事無い私は、結局主人に甘えた。
雅女史には、此れ又アンティークのネックレスを渡した。彼女はとても首が長く、首回りも奇麗だから、どっしりとしたネックレスが似合うと思った。「家宝にします」と海軍元帥と同じ事を云われた。なのに全く嫌な気はしない―――其処迄私は彼が嫌いなのかすら…。
美麗にはブレスレット、金鍍金の珠と琥珀石が並ぶ物だ。美麗は琥珀が大好きだから、でも本人は琥珀石のアクセサリーを持ち合せず、買ってあげた。が、少し失敗した。彼女は未だ十代前半、奇麗とは云ったが余り嬉しそうでは無かった。無難に菓子の方が良かっただろうか…。
一幸君にはヴァイオリン。此れは主人が選んだ。私がふっとした時、弾きたいと云って居たと云ったからだ。ヴァイオリンは矢張り、本場に限る。兄の代物は本場も本場、伊太利亜物であるが、子供の練習用には良いだろうと、ヴィオーラを弾く海軍のベイリー元帥が云った。子供用だからか、一回り小さく、可愛い。
家政婦の節子には帽子を買った。彼女は両手に荷物を持つので日傘が差せない。夏等可哀相な程顔を赤くして居るのだ。なので鍔の広い帽子、おお、仏蘭西の貴婦人みたいである。
女への土産は全て西洋骨董で固めた。無論、自身への土産も沢山買った。アクセサリーは当然、洋装しない癖に帽子も買った。
溢れた西洋骨董品、在の間十畳間に置いた。私は其れを毎日、眺めては磨き、指に嵌め、首に掛け、服に帽子を合わせて置いた鏡で見た。
無駄に広い自分の部屋があるだろう、と主人は飽きれるが、部屋は部屋。此の物置は、私の倖せを詰め込んだ部屋。男子禁制である。雪子さんも時折覗き、彼女は楽だと云う理由で洋装な為、帽子を被る。男が出払った静かな午後、女二人でくすくす笑っては、汚い掛け軸とは比べ物に為らないアンティークな時間に酔った。
此れだ、女が欲しいのは現物の価値では無い。目に見えない価値―――空気に伝わる笑い声、目に映る美しさ、質感、決して金では精算出来無い此れなのだ。
国宝?だから何だ。
私には全く価値は無い。小さくても偽物の硝子珠でも良い、うっとりする時間こそ価値がある。
英吉利から帰国して一ヶ月以上だろうか、漸くベッドは届いた。玄関は入ったが、寝室に入れないと云う事で吊り上げ、窓から入れた。此れにも金が掛かった。
父上、貴方の骨董品は、ベッドに全て消えました。
でも構いませんわよね、ワタクシには此れが大事。
主人は暫く、何だか目覚め悪そうな顔をして居た。
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