again love


彼の背中をこうして見るのは一年振り。最後に見た時、私は何故縋ろうとしなかったのか。軍を捨てる事、今の私にも、在の時の私にも楽な事であったのに、今こうして掴んで居る様に掴めなかった。
彼には彼の人生がある、其の人生に私は要らないと、一年前の背中は語って居た。
付いて来てぇなら来れば…?
そんな風に語り掛け、結果掴む事は出来無かった。彼の娘は容易く全てを捨て、其の背中にしがみ付いたとのに。
在の時の私の此の手は、未だ掴む可きでは無かった。彼の背中より掴まなければ為らない物―――戦艦の舵を選んだ。舵を切り、未来を進まなければ為らなかった。
其れももう、必要無い。
戦艦を動かす時は過ぎた。
ルームキィをソファに投げた彼は、帽子を取り、熱気を払った。
一年前なら、烏の羽の様な漆黒の髪が背中で羽撃いたものだが…。耳を隠す程度にしか無い髪では、ほんの毛先の揺れしか見せない。
「マジで居るんだな、昼間から居る奴。」
部屋に入る前出会したカップルの事を彼は云って居た。私は其のカップルを見る為り、何を遣ってるんだ白昼堂々、と感じたが、何、私も其の獣の一匹に過ぎない事に気付いた。勿論此のカップルも、白昼に同じ事をする私達にも驚いた顔を見せた。
スーツのジャケットを脱いだ彼の背中に触れた、しっとりと、シャツが湿って居た。手だけでは足りず、シャツの向こうにある冷たい体温を知りたいが為、身体を寄せた。
此れが普通の身長を持つ女だったら、背中に顔を付け、心臓の音を聞く所だが、なんせ私は彼と五センチしか差が無い。間違えられては困るので云って於く、私が低い…まあ、云っても無駄だが。
そんな高等な芸が出来無い私は、骨張った肩に頬を付け、腰に手を回す程度。
「拓也さん。拓也さんだ…」
「何よ、甘えちゃって。襲っちゃうぜ?」
直ぐ目の前で震える喉元、振動も伝わる。
タイを緩め乍ら、後ろから回り込む私の腕に触れた。彼はタイを外す事に忙しそうだったので、私がベルトを外した。
「やっだ雅様ったら、助平ねぇ。」
「流石は拓也さん、一年振りでもおっ立ててませんか。」
「全裸の美女見たらおっ立つぜ?流石の俺でも。」
少し顔を引き、肩に乗る私の顔を見た。
目の前にある肉厚な唇、何れ程触れたかったか。
其れは彼も同じだったらしく、唇を重ねて来た。
「雅だ。」
「はい、雅です。」
唇を貪り合う迄に時間は掛からなかった。一度視線を絡めただけ、其れだけで舌先が口の間で遊んだ。




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