again love
今直ぐにでも押し倒して、其の肉体を貪って遣りたい所だが、彼は汗を流したいと、風呂場に向かった。
「此処って便利何だぜ。」
しゃっとシャワーの音が聞こえた。
「設計士が英吉利人でさ、タンク形式なの。便利ぃ。」
成程其れで、簡単に湯が出た訳である。外観も何処か、英吉利で見たホテルに似て居るなとは思って居た。設計士もまさか、こんな目的のホテルに為るとは思わなかっただろうが。
彼はタブに栓をし、湯気を立たせる。暫くすると泡が一杯に為り、水を止めた。ぱちぱちと、泡が弾ける音がする。
「さて。脱がせましょうかね…?」
今度は彼が後ろに回り、肉厚な唇が何とも楽しそうに広げ、帯締を解く。解いた帯揚げの薄い先を指先に絡め、枕を絨毯に投げた。帯揚げが空中でたゆたう様は、羽の長い蝶が飛んで居るみたいで、幻惑を見た気分だった。
彼其の物が、幻惑、私には、幻。
帯を留める金具が外れ、ゆっくりと呼吸が楽に為る。
「あれ、板は?」
「して無い。」
「だから擦れんだよ、馬鹿。」
「良く、御存じですね…?時一さんと同じ趣味でも御持ちでした?」
彼が一体幾人の女の服を脱がせて来たか、知らない訳は無い。
意地悪に笑って遣ると、「琥珀に服着せてたの俺だから」と、当たり前の事を必死に云った。今更弁解した所で彼の身体から、素通った女の影が払拭する訳では無い。其れを云ったら、私も同じなのだ。
帯も、蝶の様に、薔薇文様の深緑の絨毯に飛んだ。
「うえぇ、面倒臭ぇえ…。紐紐紐…紐ばっかじゃねえかよ…。女ってマジ大変…」
巨大な蝶は、飛ぶ事は無く、黒いソファにぞっとする程の美しさで張り付けられた。
此れを私が着て居たと云うのだろうか。
「大丈夫、私ずぼらですから、少ないです。」
漸く長襦袢姿に為った私は、云っては見たが心底面倒臭そうな彼の代わりに、肌着迄一気に脱いだ。
湯気がスモークの様に私の身体に纏わり付く付き、湿る。開ける所は全て開けて居た彼は、シャツの裾をそっと靡かし、バスタイルに膝を付けた。
彼の膝に片足乗せ、其処だけは熱い唇が足の甲から脛に流れ、膝を舐めた。足だけの愛撫だが私には充分で、湯気の様な息を吐いた。
膝から唇は流れ、最初に外腿、一度腰迄行くと膝に戻った。
泡の弾ける小さな音に重なる、彼が唇を離す音。バスルームな所為か、良く響く。其れは私の獣を呼び、奥を疼かせる。
「拓也さん…」
真下に見える頭に触れると、唇よりも熱い舌が内腿を撫で上げた。彼を求める其処ぎりぎり迄舌は這い、鼠蹊部を過ぎると腰骨を抜け、離れた。
腰の真横に彼の頭があり、髪が触る。巣窟の様な真黒い目が私を張り付けにし、其れだけで行きそう、仰け反り声を漏らした。
だらし無く緩んだ口を見られない様手で隠したが、上を向いて居る間に彼は服を全て脱ぎ、先にタブに浸かった。泡が弾ける音が凄い。
「ほら、御出で。」
泡塗れの腕を伸ばし、引き込んだ彼は、タブに私を押し付けると泡に構う事無く、私の唇を貪った。唇だけでは足りないのか、舌が侵す範囲は広がる。顎下を舐め、泡から少し出る足を愛でた。泡に塗れる腕で彼の頭を抱え、受ける攻撃に声を漏らした。
漆黒の髪は白い泡を纏う。見える耳を噛み、声を漏らし続けた。
蜘蛛の足の様に細い彼の指、差し詰め私は蝶、彼の唯一の食料。私以外の蝶は、もう要らない、巣に掛かって欲しくない。彼の張り巡らす快楽の糸に掛かるのは、私だけで良い。
そんな醜い嫉妬、牙が身体に減り込んだ時、其れを隠す様に背中に爪を走らせた。
「嗚呼…っ」
泡は揺れ、タイルに落ちる程。
「拓也さん、拓也…さん……っ、もっと…嗚呼、奥…っ」
「雅…雅……」
俺の雅……………。
蜘蛛の足は頬を撫で、唇を食べる。漸く見付けたと、黒い目は揺れる。
タブに頭と足を乗せ、奥迄彼を受けた。まるで飲み込む様に。タブから垂れる足は羽みたく揺れる、ゆらゆらと、彼に動かされる。そうする事でしか跳べない私を、羽を、揺らす。
蝶に鳴き声が無いと何故思う、聞こえて無いだけに過ぎないのでは無いか。私は確かに、声がある。彼に依ってだけ、出る声。白濁する蜘蛛の糸は、私の奥に張り巡らした。
もう二度と離さない。延々と蜘蛛が吐き出す糸に、永遠に捕らえられて居様。私以外を捕らえない様に。
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