狐と狼


膨大な陸軍基地に馨は緊張の息を吐いた。
父の跡を権力で継ぎ、早一週間。今日初めて、陸軍元帥木島和臣に会う。
人間で無い其れは、馨の身体を震わせる。
「嗚呼…緊張で眩暈がして参りました…」
力が抜け、其の場に座り込む。其の光景を門番三人が冷たい目で見ていた。
「早く、御入り頂けますか。加納元帥殿。」
「其処にずっと座り込み、馬車を置かれていては、迷惑になります。」
「申し訳、御座居ません…」
呟いた馨の声は、後方から来た馬車の音で呆気無く消された。門番の動きと目が鋭くなる。
「早く退け!」
「開門っ!」
「木島元帥、御到着っ!」
鳴り響く警報音。
後方から近付く馬車の音に、馨の乗って来た馬車馬が興奮か恐怖を感じ、荒く蹄を鳴らし道を開けた。
「邪魔だっ!」
門番に抱えられ、馨は隅に寄せられた。馬車と平行して走る、漆黒の毛並みを持つ力強い軍馬。人は乗っていないのに、然りと主の後を追う。其の大きさに驚いた。馨に力は相変わらず入らず、目の前を通り過ぎる大きな馬車を目で追った。
窓から覗いた顔。
険しく眉間に皺寄せ、前を睨み付けていた。
威圧を感じ、緊張とは違う震えが馨を震わせた。




*prev|1/3|next#
T-ss